だれを輝かせるか ~第26節 vs ウェストハム~
こんにちは。
tadashiです。
前節アーセナルを下し、ミッドウィークにあったチャンピオンズリーグラウンド16では見事ボルシア・メンヒェングラートバッハを2対0で下し、アウェイで白星。公式戦の連勝を19に伸ばしたマンチェスターシティ。
今節は、好調4位のウェストハムとの試合です。
冬にマンチェスターユナイテッドからリンガードをローンで獲得したウェストハムはモイーズのもと2月のリーグ戦3勝1分1敗。前節はトッテナムに勝利し、ノリに乗った状態でマンチェスターシティと戦います。
スタメン
両チームのスタメンはこちら
■ホーム マンチェスターシティ 4-3-3
前節アーセナル戦からは、2人を入れ替え、フェラン・トーレスとアグエロがスタメン。
アグエロのスタメンは実に1年ぶり。その最後のスタメンでの出場もウェストハムだったそうです。フェラン・トーレスは、第21節ブレイズ戦以来のスタメンです。
CLボルシア戦からは7人を入れ替えています。中2日の過密日程でもこれだけの選手をそろえられるマンチェスターシティ。なにより怪我人が少ないことがうれしいです。
ギュンドアンとデブライネは途中から左右を入れ替えていました。
■アウェイ ウェストハム 3-4-2-1
普段の4-2-3-1ではなく、3-4-2-1を採用。1週間かけてじっくりとマンチェスターシティ対策を練った結果のシステム変更。
前節トッテナム戦からはボーウェンをジョンソンに変更。普段右サイドのジョンソンを左で起用。これはおそらくSBおよびWBがいなかったことが原因でしょう。
1トップのアントニオに下のリンガードとフォルナレスを配置し、3人でのフィニッシュを狙います。
苦しめられた選手
・リンガード
この冬にマンチェスターユナイテッドからローンで加入した攻撃的ミッドフィルダーがマンチェスターシティを苦しめました。マンチェスターユナイテッドの選手というところが嫌ですね。
アシストを記録したのもそうですが、フェルナンジーニョを自由にしない守備のタスクをこなしながら攻撃時にはバイタルエリアに頻繁に顔を出し、マークにつききれずフリーで前を向かれることも多かったです。
・アントニオ
30歳のこの屈強なフォワードは、ウェストハムでマンチェスターシティを大いに苦しめます。
前回対戦でもそのフィジカルでマンチェスターシティ相手に得点し、これにより2回の対戦のどちらでも得点をあげる珍しい選手となりました。
経歴を見ると2007年からサッカー選手としてスタートし、様々なクラブを渡り歩き2015年からウェストハムに所属しています。
身長は180cmとそこまで大きくはないのですが、80㎏を超える体格を活かし、前線のボールをほとんど自分のものにし、ストーンズ、ルベンディアスにはまったく力負けはしませんでした。
また、前半終わりにリンガードからのパスを受けようと瞬時に左に走るコースを変えたシーンがありましたが、的確にシティの弱点をつこうとする狡猾さも見えました。
ウェストハムの攻めの5バック
上に今日の試合のスタッツを示しています。
ポゼッションの高さやパス本数を見るといつもの勝利だと思われるかもしれないが、現実は数字で見るものとは異なることがよく知られている。
枠内シュート数は3本と同数。
前半20分までシティのシュートは0で、ゴール期待値と呼ばれるxGは、90分間でシティ0.46、ウェストハムは1.93です。
さらに前半だけで言えば、xGはシティが0.13で、ウェストハムは1.81でした。
前半終了時点のスコアは1対1です。
前半のウェストハムは間違いなくシティを上回り、狙い通りの展開を作り上げていました。
そこで今日はモイーズの考えたシティ対策をピックアップしたいと思います。
5レーンを埋めるため
まずは守備からです
基本システムは3-4-2-1のウェストハム。
普段の4バックを変えた理由は2つです。
・5レーンを埋めるため
・サイドチェンジによるWGの単独突破を最大限抑えるため
ここ最近のシティはビルドアップ時には3-2の形(4バック+アンカー)となります。IH及びFWの計5人はそれぞれピッチを縦に5分割したレーンにそれぞれ配置される形になります。
ビルドアップにより相手ディフェンスをずらしながら片方のサイドに集め、一気にサイドチェンジすることで、フリーとなったWGが単独突破もしくはカットインからのワンツーで仕掛け、チャンスを作るのがシティの攻めの形です。
ウェストハムのキックオフで試合が始まりましたが、クレスウェルのロングボールを合図に全体を押し上げるウェストハム。
ビルドアップに対してGKまでプレスにいくアントニオからも見られるようにシティのビルドアップに対して引いて守ることは選択しないことがわかりました。
また、ビルドアップを司るフェルナンジーニョにリンガードを、ジンチェンコにフォルナレスをつけます。後方ではライスとソウチェクが中央を締め、ハーフスペースを含めた5レーンすべてにディフェンダーを配置することで中央でのプレーエリアを狭め、そこからの展開を封じることとしました。
上の図は6分のシーンです。
ウェストハムがボールを奪われたあとにGKのエデルソンまでプレスにいったシーンを表しています。引かずに前からプレスをかけています。
ルベンディアスからエデルソンに渡ったボールに対し、リンガードはルベンディアスを背中で消しながら、またアントニオがストーンズのパスコースを消しながらプレス。唯一のパスコースであるフェルナンジーニョには後方からソウチェクがプレス。
ファウルとなってしまいましたが、素早いプレスでシティを追い込んだシーンでした。
リンガード、フォルナレスはそれぞれマーカーを持っていますが、アントニオのプレスに合わせて前に連動するようなタスクも与えられていたと思います。
さらにはそれにあわせてSHとCHが前にスライドし、奪える位置でインターセプトを狙っていました。試合を通してインターセプトの回数が20回でしたがそのうちの半分以上の12回は前半に生まれています。
マンチェスターシティのビルドアップはあくまで平面的なパスによるものがほとんどで、エデルソンから開いたSBへのプレス回避以外はミドルボールすら使わない特徴があります。
モイーズはその特徴をしっかりと研究し、本番で結果を出しました。
何度かサイドチェンジを許した場面もありましたが、中央締めているおかげでロングボールの出る位置が後方となるため、ゆとりをもってSHがマフレズやフェラン・トーレスへスライドできました。
変化を加えるシティ
中央を経由したサイドチェンジができず、サイドチェンジしても素早くスライドされ、WGが良い状態で仕掛けられない状況が続いたマンチェスターシティは、この男の動きにより変化を与えます。
デブライネのポジション移動です。
デブライネが加えた変化を図に表しています。
元々右のIHで始まったデブライネは、少しずつポジションを変え、ギュンドアンと入れ替わるように左へ。そして中央が窮屈となるとウェストハムのCH2枚の脇に移動したのです。
これによりデブライネはフリーでボールを持つことができ、チームメイトの動きに合わせて高精度の配球が可能となります。それだけでなく、デブライネをフリーにさせたくないウェストハムの心理を読みとり、自分にフォルナレスを注視させることで、ジンチェンコをフリーにさせていました。
もちろんこのデブライネの動きにいち早く反応し、フォルナレスを下げたウェストハムの対応も素晴らしいものでした。
さらに、デブライネは5レーンをすべて埋めるウェストハムのディフェンスラインのチャンネルを横切るドリブルを見せる場面も。
彼の判断と能力で、シティは相手陣内でボールを保持。
28分にマフレズが仕掛けファウルを受けたように、WGが1対1となるシーンを作れるようになったところで待望の先制点が入りました。
コーナーキックのこぼれ球をデブライネにつなぎ、左足で正確なクロス。コーナーキックから中に残っていたルベンディアスとストーンズめがけて放たれたボールはきれいな放物線を描き、ルベンディアスのヘディングシュートをアシストしました。
ひとつ前のフリーキックの場面でもセカンドへの対応が悪かったウェストハム。
このコーナーキックでも同様にセカンドへの対応が悪く、失点をしてしまいました。
攻めあぐねていたシティが先制し、ルベンディアスは初ゴール。デブライネはケインに並ぶ11アシストでアシストランキングトップタイとなりました。
偽SBは弱点
続いてウェストハムの攻撃についてです。
今日のマンチェスターシティはジンチェンコが偽SBとしてビルドアップに関与していました。左SBの位置からするするっとフェルナンジーニョの横に移動し、WGのフェラン・トーレスへのパスコースを作りながら中央でボールを出し入れする役目を担っていました。
モイーズはこのシティの生命線である偽SBを自分たちの攻撃の狙いとしたのです。
前半の15分間をシティのシュート0に抑え、この対策に手ごたえを感じたウェストハムはじわじわと攻撃に転じます。
フォルナレスがデブライネとジンチェンコの対応に追われていましたが、その他の部分ではボールを奪えていたウェストハムは、ボールを奪った瞬間に前線の3人が連動しながらシティの裏のスペース、特に左SBのスペースを虎視眈々と狙っていました。
それが見事に実ったのが39分のアントニオの決定機となったシュートと43分のアントニオの得点です。
39分はジンチェンコをつり出してCBとの間に選手を走りこませたことでジンチェンコの裏をついています。
そして同点となった43分は、前半から繰り返していた引かないプレスから偽SBの裏をつくという最高の形で得点をあげています。
マンチェスターシティを長く見ている人からすれば「いつになったらスローインからボールが繋がるようになるんだよ」と思っていることでしょうが、私も同じです。
アグエロがおりてくるまでスロワーのウォーカーの近くの選手たちは足元でもらうばかり考えているようでした。アグエロにボールが投げられたときにはすでにウェストハムの二人の選手で囲まれていて、ロストの瞬間も先に動き出していたのはウェストハムの選手たちでした。リンガードがデ・ブライネを出し抜いてフリーで受けたときには「あ」と声をあげていました。
アントニオはマンチェスターシティとの1シーズンの対戦で2点をとった選手となりました。
トラオレと言い、こういうフィジカルの強い選手とはことごとく相性が悪い…。
アグエロへのスローインがとられる前のプレーでもウェストハムに追い込まれ、CBからウォーカーへのパスを狙われていました。
嫌な流れを断ち切ったのは前半終了のホイッスルでした。
デブライネとギュンドアン
さて、試合のレビューを一時中断し、この問題を考えてみたいと思います。
デブライネとギュンドア問題です。
今日の試合デブライネとギュンドアンが同時にスタメンで起用されました。
見ている人たちも気になったはずです。
交代時のギュンドアンの険しい表情は、走り疲れたからというわけではないと私は思いました。
ここ数試合と違うのです。
デブライネがピッチにいるのです。
デブライネの怪我により、シティはより戦術的なチームとなりました。
守備の時にはコンパクトな4-4-2もしくは4-3-3で中央を締め、ボールロストしたら素早く囲む。攻撃ではベルナルドシルバが全方位に顔を出し、カンセロとジンチェンコで回し、ジェズスがキープしてWGで仕掛け、最後にギュンドアンで仕留めていました。
しかし、デブライネが入ると良くも悪くも手数が減ります。
攻撃はデブライネからの大技が主体となり、スピードがあるわけではないギュンドアンがゴール前に飛び込む時間はありません。
また、デブライネの守備は大味です。前で追ってはくれますが、雑になることもしばしば。今日の試合のように4-4-2のセンターにいても背後を取られたり、失点シーンのリンガードとの駆け引きでも下がる選択がありませんでした。
前線に残ることも多く、デブライネが持った時の最初の選択肢はゴールに近い人。いなかった8試合と比べてゴール前への到達時間も一人でチャンスを創出する回数も桁違いでした。
ここまで読んでいただいてもうおわかりだと思いますが、デブライネとギュンドアンは両方同時に輝くことが難しい可能性が非常に高いです。
個人的にはそんなこと考えたくもないのですが、バランスを考えたときにはデブライネと”今のギュンドアン”を同時起用するのは少し怖いなと感じました。
試合は、5-4-1に切り替えたウェストハムにボールを持たされていましたが、セットプレーのセカンドへの対応の改善が見られなかったウェストハムに救われ、ストーンズのゴールで勝ち越すことができました。
ジンチェンコやフェルナンジーニョがボールを持つことは許容され、そのパスの先をしっかりとマーク。取れるチャンスがあればトライし、奪えればアントニオとリンガードに預ける。シュートは打てど、得点にならない。これまでのシティであれば敗戦濃厚な試合でしたが、なんとか勝てました。
鉄壁の守備を誇るCB2人が、チームを救う得点をあげたのはチームとして非常に良いことです。
苦しく勝てるか微妙な試合に競り勝つことができることはこれまでシティになかった部分です。
このぎりぎりで勝ち切る力があればCL制覇だってプレミアリーグ優勝だってものにできるだろうと思います。
話を戻します。
以前、私はこんな記事を書いています。
シティの状況が好転したセインツ戦で感じたデブライネを救う方法です。
これを久しぶりに読んでみて思いました。
ギュンドアンを救うのもベルナルドシルバかもしれないと感じてしまいました。
ギュンドアンはベルナルドシルバのようにデブライネを走らせて、デブライネを使うプレーをするとは思えないです。できないのではなく、同じサイドに偏るという選択を取らないと思います。
デブライネとペップならすぐに答えを出してくれると思いますが、私が以前ブログでも話した「王様デブライネシステム」か「デブライネを戦術に組み込むか」という2択を今シーズンはこれまでうやむやにされているようです。
結果
30' ルベンディアス(assist by デブライネ)
43' アントニオ(assist by リンガード)
68' ストーンズ(assist by マフレズ)
HIGHLIGHTS | CITY 2-1 WEST HAM | BEST OFFENCE IS DEFENCE
まとめ(今日のジンチェンコ)
それでは今日も最後にジンチェンコの振り返りをしておきましょう。
まずはスタッツです。
今日もフル出場。
ジンチェンコに今日与えられた役割はビルドアップです。終始首を振りながらCBをとパス交換をし、味方に指示をしていた姿は感慨深いものがありました。成長が期待されます。
ボールタッチ数は両チーム最多の118回、パスコ成功率は92%。キーパスも2本記録しています。
アーセナル戦でも同様でしたが、ファウルを与えてないことはやはり素晴らしい。
インターセプトが4回で、チームの約4分の1を記録。今日の試合はフェルナンジーニョがインターセプト5回と二人でしっかりとフィルター機能を果たしていました。
続いて、ジンチェンコのヒートマップです。
ボールタッチの数もそうですが、左SBの位置を起点に、ピッチ中央はたまたペナルティエリアの前まで入り込んでいました。
赤いエリアがより多くプレーした位置になりますが、左サイドはほほジンチェンコが制圧していたと言っても過言ではないと思いました。
11分のマフレズへのサイドチェンジや17分のデブライネへの縦パス。これはカンセロとは異なるジンチェンコがビルドアップすることの特徴です。
カンセロは、アンカーの横から一気に前進し、ラストパス、フィニッシャー、ラストパス前の仕掛けのパスが出せる特徴がありますが、ジンチェンコにはずっしりと構えてじっくり相手の動きをコントロールする技術をぜひ会得してほしいと思います。
最後に上の図を見てください。
これはヒートマップとほぼ変わらないとは思いますが、ジンチェンコのパスの位置において一番外側を繋いだものです。
これからわかることはジンチェンコがこの試合でカバーしたエリアの広さです。
攻撃方向は左から右。
攻撃方向に向かうにつれてピッチ幅をより占有しているのがわかります。縦方向に関してはほぼすべてをカバー。しかし、縦方向には深くまで踏み込まず、ボール回しに徹していました。
ピッチ面積に対するこの専有面積の割合とその他のデータを活用して、なにか新しい指標を提唱したいなと思っています。
マンチェスターシティはこれで公式戦20連勝。リーグ戦14連勝です。
怖いほど勝っています。
リーグ2連覇をしたときが怒涛の14連勝でリバプールを1ポイント差で負かしたのですが、それを上回る勢いです。
デブライネとギュンドアンなんて問題を書きましたが、正直ぜいたくな悩みです。こんなに勝っているのに何を心配することがあろうか。
シティファンは心配性なんです。
続いてはウルヴス戦。
今シーズンまだ1得点も取れてないという噂のアダマトラオレが覚醒しないことを祈りましょう。
それでは!