デ・ブライネのタスクは守備 プレミアリーグ第6節 Chelsea vs Manchestercity
こんにちは。
tadashiです。
本日は、昨シーズンから3連敗と負け続けているトゥヘルチェルシーに挑んだマンチェスターシティの試合のレビューをしたいと思います。
最初にマンチェスターシティが見せた攻守の形を解説し、次にこの試合枠内シュート0本に終わったチェルシーを少しだけ考えたあと、チェルシーがシステム変更した残りの30分間を追ってみます。
最後にこの試合素晴らしいプレーを見せたベルナルドシルバについて言及する流れです。
最後まで読んでもらえるとうれしいです。
スタメン
詳しくは下記フォーメーション図を参照してください。
ホーム チェルシー 3-5-2 フィジカルとスピードの共演
GK:メンディー
DF:アスピリクエタ、クリステンセン、リュディガー
MF:リースジェイムズ(⇒29’チアゴ・シウバ)、カンテ(⇒60’ハヴァーツ)、ジョルジーニョ(⇒76’ロフタスチーク)、コバチッチ、マルコスアロンソ
FW:ルカク、ヴェルナー
アウェイ マンチェスターシティ 4-3-3 情報戦大勝利
GK:エデルソン
DF:ウォーカー、ルベンディアス、ラポルト、カンセロ
MF:ベルナルドシルバ、ロドリ、デ・ブライネ(⇒81’マフレズ)
FW:ジェズス、フォーデン(⇒87’フェルナンジーニョ)、グリーリッシュ(⇒87’グリーリッシュ)
偽物ばかりのシティ
”偽”偽SB
悪口ではありません。
試合開始はシティのキックオフ。
下げてもらったロドリが大外にパスをするとそこには右SBのウォーカーがいます。
ウォーカーがCBのルベンディアスに下げたところでいつもと違う違和感にシティファンであれば気づいたと思います。
逆サイドのカンセロは開いたままだったのです。
普通のSBなのですが、マンチェスターシティからすればこれは偽SBではないSBなので、”偽”偽SBですね。
この位置はこの試合の非常に重要なポイントなので頭に入れたまま読み進めてください。
後に図で解説しますが、チェルシーは守備時5バックで5レーンを封じ、中盤3枚+2トップで中央のビルドアップを阻害する準備万端でした。
”偽”偽SBだけではありません。
今日のシティは、フォーデンを前線に据えた0トップを採用していました。偽9番です。
フィジカル能力だけでなく、クレバーな選手がそろっているチェルシーのCB陣に対して中央で真っ向で受けるのではなく、空けてひたすら空けて、最後に入り込むという動きをチームとして統一していたと思います。
最後の偽〇〇は、偽IHのベルナルドシルバとしておきましょう。
詳しくは後に出てきますが、今日のベルナルドシルバをIHと呼ぶにはあまりにもすべてをこなしていました。
なんと呼んで良いのかわかりません。なので、偽IHとします。
それでは、次に前半のマンチェスターシティのビルドアップ。そして、崩しの局面について解説します。
前半にゆったりと持てた理由
前半のポゼッション率は、ホームチェルシー34.3%、アウェイマンチェスターシティが65.7%となり、比較的ゆったりとボールを保持し、枠内シュートはなかったもののシュートはチェルシーとシティで1本対6本。コーナーキックの数は1本対9本と、ポゼッションを高めながらシュートチャンスやセットプレーを多くつくっていたシティ。
コミュニティシールドから実践していた両偽SBというビルドアップのアプローチを変えてきたペップの考えを想像してみましょう。
まずは、基本的な配置を以下の図に示します。
両チームそれぞれに特徴的なことがあるので上の図を見ながら確認します。
前線からプレスをかけずに中盤3枚と2トップで中央を圧縮し、五角形を形成
マンチェスターシティ:
偽SBは使用せず、4-1+αのビルドアップ
トゥヘルも含めて予想できなかったのが、この偽SBを採用しない”偽”偽SBでした。
両SBのウォーカーとカンセロはあまりロドリに近づかないような位置取りをしつつ、大外レーンの両WGへのパスコースを阻害しない位置をキープしていました。
それでいてロドリが2トップの後ろに立ち、チェルシーの2トップがパスコースを消さなければいけない位置を取ることでCBへのプレッシャーをほぼ0としたのです。
開始早々にこの違和感に気づきましたが、前半2分にはこの判断が正しかったことを証明するビルドアップから崩しまでの局面を見ることができました。
それが以下の図で示しているものです。
このシーンは、チェルシーのボールをカットした後にベルナルドシルバが右からルベン・ディアスに下げたところから始まります。
さて、注目するのはチェルシーが形成する五角形です。
上の図の台形に近い五角形は統率が取れている形なので、シティは中央を使わずに五角形を崩し、崩れた瞬間に中央を使ってゴール前まで進出するという流れを狙っていました。
ルベン・ディアスがボールを持つとベルナルドシルバがSBの位置に下り、ウォーカーがジェズスと同一レーンまで大きく開きました。
そのウォーカーにボールは渡った時が上の図になります。
ベルナルドシルバはSBの位置からまた前線に走ります。
このあと、コバチッチは持ち場を離れてウォーカーに、ヴェルナーは一応ベルナルドシルバへの対応として少しポジションを落とします。
ロドリは継続して五角形の中にポジションを取ります。
パスコースが切られていたので、ウォーカーはルベン・ディアスに落とし、1枚目のような形に戻ります。
そこで次に、ディアスはベルナルドシルバへのパスを選択。ベルナルドシルバはコバチッチを引きつけて逆サイドのラポルトへ展開します。
このときの五角形はかなり崩れ始めていますが、カンテとジョルジーニョの位置はほとんど変わっていないので、中央は空きません。
そして上の図の展開になりますが、ひとつ前の図でラポルトは一度、カンセロに預け、カンセロはカンテを引きつけてラポルトに下げました。
これにより少しだけチェルシーが全体的にポジションを上げました。ラポルトが左足でボールを持ったと同時にカンセロは斜めに外側に開き、右WBのリースジェイムズの位置でボールを呼び込み、パスを受けます。
それが上の図となります。
図を見てもらうとわかりますが、ここでついにカンテとジョルジーニョが動きました。カンセロの内側への数歩のドリブルでリースジェイムズをつり出し、アスピリクエタとクリステンセンの間にデ・ブライネを置くことで、ジョルジーニョが動かざるを得ない状況が演出されました。
このあとはカンセロがフォーデンへパスを通し、右サイドに展開した後に、ジェズスがクロスを放り込みました。
得点にはならなかったのですが、試合開始直後から狙いがはっきりと見えて興奮しました。
このようなゴール前で中央を使う形は、ペナルティーエリア手前で横方向のパスを含めてこの試合は多かったことから、五角形を崩して、DFラインを下げさせて、中央を使うという意識が共有されていたと感じました。
31分のデ・ブライネのシュートにいたったシーンや、58分のSB同士のパス交換から最後グリーリッシュがシュートを打ったシーンなどが思い出されます。
さて、次は守備を見てみます。
チェルシーにされたくないこと
それは”ビルドアップでWBを使われること”と”ジョルジーニョから楔が入ること”です。
1つ目の”ビルドアップでWBを使われること”というのはこの試合チェルシーが3-5-2で来てくれたことで問題にはなりませんでした。
図は用意していませんが、3-4-3と3-5-2では残すDFの枚数が変わるので、2トップ相手には3枚残し、余ったSBはゴールキックサイドのWBをケアすることができました。
さて、問題は2つ目です。
昨シーズンのチェルシーと大きく異なることは、イタリアでポストプレーを学んだルカクがいることです。
これまでのルカクはこの圧倒的なフィジカルがありながら、ポストプレーが苦手だったようで、そのままでいてくれれば良かったものの、どうやらかなりの成長を見せてチェルシーに戻ってきてしまいました。
片手をあげるだけでDFが止まるルカクのポストプレーは快速ヴェルナーとの相性はおそくら抜群。どうしてもポストプレールカクから裏へ抜け出すヴェルナーという攻撃を受けることは避けたい。
となったときに考えたのが「楔を出させない」というアプローチでした。
下の図を見てください。
20分ごろだったと思いますが、シティDFラインからチェルシーの背後に出たボールをチェルシーにカットされ、クリステンセンからジョルジーニョにパスが出た瞬間の図です。
ジョルジーニョは当然、プレッシャーが来ているのはわかっていますので、簡単にボールをはたき、次のプレーで前向きで受けることを考えていたでしょう。
それに対してシティが仕掛けたのがデ・ブライネのアジリティでつぶすというアプローチでした。
デ・ブライネはジョルジーニョにプレス。ジョルジーニョは近くにいるマルコスアロンソにパス。
デ・ブライネは足を止めずに追い続けます。それが次の図。
デ・ブライネはマルコスアロンソにもプレスをかけ、マルコスアロンソに判断の余地を与えず、クリアをさせる前にボールに間に合い、中途半端なボールをロドリが保持することができました。
このようにビルドアップでWBを使われるという問題をクリアしていたシティはこの試合前線のハイプレス、ロスト後の素早い戻りを徹底し、パスコースを塞ぎ続けるプレーでチェルシーのビルドアップを阻害していたのです。
チェルシーが抱えた悩み
背後と前のバランス
続いてはチェルシーのことを想像しましょう。
昨シーズンのCL決勝、開幕からの5試合を見て、おそらくチェルシーは下の図のような形になると思っていたはずです。
両偽SBによりシティの五角形と自分たちの五角形を数的同数にし、たまらず下りてくるデ・ブライネ、ベルナルド、フォーデンを利用した両WGへのパスを阻害し、カット後に速攻。
ルカクがいて、ヴェルナーがいる今日のチェルシーにはぴったりの戦術です。
しかし、実際は以下のような展開になり、チェルシーは自分たちのペースを掴めないまま90分をいたずらに使うこととなりました。
SBは内側に絞らず、本来のSB(現代の多様化した戦術の中で、何が本来のものなのか改めて定義付けが必要ですが、ここではクラシカルなSBを本来のSBとします)のポジションを取っていました。
これはチェルシーにとっては大きな誤算です。
ビルドアップを阻害してシティの前線の選手をビルドアップにフォローさせる目的はおろか、SBの位置がCHからもWBからも遠く、「だれがプレッシャーにいくのか」という問題を発生させました。
ただ、この問題だけであれば片方のサイドのWBをシティのSBまで上げて一時的に4-4-2のオーガナイズを取ることが対策としてできました。(あくまで対策の一例)
チェルシー、というよりもトゥヘルにとって誤算が問題になった要因がフォーデンとジェズスのDFの背後への飛び出しです。
これは開幕5試合見せなかったことでもあったし、フォーデン0トップでフォーデンが裏へ抜け出すのはこれまで一度もなかったことです。
フォーデンの怪我が癒えるのを待ち、満を持してスタメンで出場させた場所が1トップのポジション。だれもが偽9番というタスクを与えるはずだと思っていたはずです。
左CBにはラポルト、左SBはカンセロ。
左足からも右足からも、マルコスアロンソが前に出た背後をつかれる高精度のロングボールが飛んできます。
前半10分のうちにチェルシーのDF陣には、「自分たちの背後を取りに来る」というイメージが強烈に植えつけられたことだろうと思います。
これによりチェルシーの左サイドは重心が低くなり、右サイドとのラインに少しだけばらつきが生じました。
シティは左サイドでボールをキープし、チェルシーのDF組織に段差を作り、中央もしくは右サイドから崩すという形を終始繰り返すことになります。
左サイドにいる選手たちが、ラポルト、カンセロ、グリーリッシュ、デ・ブライネ。
ボールが奪えないのに追わないといけないのつらいです。
唯一の突破口はヴェルナー
少なくとも前半はヴェルナーの裏への飛び出しぐらいしかチャンスの可能性がなかったと思いました。
パスは繋がらないなら当然ルカクに縦パスが通ることもほとんどない。
チェルシーの攻撃で印象に残っているのは、運良くシティの崩しの局面の手前で奪えたときに矢印がシテゴールに向くヴェルナーがスピードに乗った時だけでした。
15分のシーンは唯一ゴールに迫ったプレーでしたが、これはルカクについていたカンセロをほめることになりました。
チェルシーの2トップは調子が良かったと思います。
ルカクは背負えていたし、ヴェルナーはタイミングよく走れていました。
チェルシーの前半の平均ポジション。
予想通りといった感じですか。
左サイドに集められ、手薄の右を攻められるというのが見えてきますし、2トップと中盤の距離感も遠いことがよくわかります。
孤立した2トップ
後半のチェルシーも状況はなかなか改善されず。
ルカクとヴェルナーという強力な2トップも孤立してしまえば1対1の勝負です。
すぐ上でも書いていますが、前半ヴェルナーのスピードは驚異でした。
ルカクに当てないでウォーカーが戻ってくる前にルベン・ディアス側から背後を狙う。
という形はシティも危険を感じていたと思います。
しかし、ルベン・ディアスに止められてしまった前半を得て、後半は完全に孤立。
スピード勝負もサイドに追いやられ、2人3人に囲まれることでボールロスト。
シティのボールになり、チェルシーのラインは上げられず、いつまでたっても8人と2人は分断されたまま時間が経過していくことなりました。
それでもチェルシーは耐えていてお互い無得点のまま試合を進めていくつもりだったかもしれません。
そこで決まったのがジェズスのゴール。
53分のゴールはこのままでは無理だとトゥヘルに思わせるに十分な失点でした。
トゥヘルは残り30分というところでシステムを修正します。
3-4-2-1に変えた30分間の攻防
前から行くことに決めた
60分 トゥヘルはカンテをハヴァーツに代え、3-4-2-1にシステムを変更しました。
頂点にルカクを置き、その背後の2シャドーにハヴァーツとヴェルナー、センターにはジョルジーニョとコバチッチが並びます。
もちろん守備も変更。
ロドリへのパスコースをルカクで消し、前からプレスをかけ、奪えたら速く前へ。
シティの後ろから同数で当てていき、前から前からのプレッシングに変更です。
得点を取らないといけないので当然の判断です。
ロフタスチークも投入し、パスを繋ぐよりも推進力を取りました。
チェルシーもチャンスを作りましたが、今のシティは攻撃よりもCBの守備能力の方が高いので、ペナルティエリア手前で振られてもギリギリのところで追いつきます。
70分のシュートブロックなんかはルベンディアスの個人能力に依存したディフェンスでした。
もうそれでいいんです。勝てれば。
カウンター合戦に乗ってしまうシティ
試合はマンチェスターシティが1点を守りきりトゥヘルチェルシーに4試合目にして初勝利。そしてペップは歴代シティマネージャーとしての勝利記録が1位となりました。
大変喜ばしいことですが、いつも疑問に思うのはカウンター合戦になったときに相手と同じ労力でカウンターを仕掛ける必要があるのかということです。
特にデ・ブライネが交代するまではとにかく速い。止まることを知らないほどの勢いです。
チェルシーがなんとかゴールをこじ開けようと前がかりになるのならもう少しカウンターに工夫をと思ってしまうのは多くを期待しすぎなのでしょうか。
そして相変わらず疲労と比例して異常に精度が落ちるデ・ブライネ。
精度が落ちるというか味方と合ってないけどもうパス出すからというパスが目立つのが数年前から気になるところです。
残り30分間のスタッツは両チーム均衡していました。
シュート数は4本で同数。
ポゼッションもチェルシーが51.6%とほぼイーブン。
どちらにも得点が生まれなかったのが不思議なほどでした。
チェルシーはチアゴ・シウバ、シティはルベンディアスという二人のCBがチームを守る素晴らしいディフェンスを見せました。
ベルナルドとその他大勢
スタッツ
プレイタイム:90分
タッチ数:92回(両チーム内で2位)
パス成功率:89%
キーパス:1本
地上デュエル勝率(50%)
クリア数:4本(両チーム最多タイ)
インターセプト:1回
タックル:3回
チーム全体での守備ではなく…
今日のマンチェスターシティはチェルシーの思惑をうまく利用し、それを外した配置によって90分間自分たちのペースで試合を進めました。
それだけではなく、前からジョルジーニョなどのビルドアップのキーマンにハードにプレスをかけることで、即時奪回を繰り返すことができていました。
ただ、守備が組織的だったか?と言われたらまだそうとは言い切れないです。
例えばネガティブトランジションの最高到達点はチェルシー陣内のペナルティエリア手前ぐらいまで。
うまくその先に運ばれてしまったら結局、CB+ウォーカーが頼みの綱になってしまう。
そして今日の試合はDFの選手以上にベルナルドシルバが走って戻って、チェルシーの攻撃を跳ね返しそのまま攻撃に転じていました。
チェルシーにカンテがいるなら、シティにはベルナルドシルバがいる。それぐらいの活躍でした。
試合終了の瞬間にピッチに顔を埋め、喜びを爆発させたベルナルドシルバをいとおしく思ったシティファンがいったい何人いたでしょう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
最後に
最後の最後にこの試合で個人的に興味深かったことを書いて終わりにします。
ペップはマンチェスターシティの攻撃のキーマンをフォーデンに移そうとしている
デ・ブライネではないの?と思うかもしれませんが、今日のデ・ブライネは守備の特攻隊長としての役割が一番でした。
ボールロストの瞬間の爆発力はチェルシーの驚異になり続けました。
また、フォーデンのスペースを空けるためなのか、CB-SBを狙い動いていました。(ジョルジーニョを動かすため)
ジェズスが巧みなボールタッチで背中を向けた状態からシュートを放ちゴールになりましたが、その他のほとんどで「フォーデン、君はどうする?」という問題提起をこの試合に感じました。
おそらく今回のチェルシー戦のようなビッグゲームでペップは同じようにフォーデン最前線のシステムを採用してくると考えています。
それは、フォーデンへの期待とマンチェスターシティの未来のための一手じゃないかと勝手に想像していて、もしそうだったら鳥肌ものです。
フォーデンがゴールゲッターになるのか、チャンスメイカーになるのか、今シーズンを見届けようと思います。
とにかくチェルシーに勝利したのはうれしい!
気持ちよくチャンピオンズリーグに気持ちを持っていけそうです。
それでは!