白を染める勝利 CLラウンド16 vsパリ・サンジェルマン
こんにちは。
tadashiです。
ベルナベウが揺れた。
ベルナベウの圧倒的な力に心を乱したのは、追いかける白い巨人ではなく、受けて立つフランスの都パリ。
150分を耐えたエッフェル塔は気づけば崩壊していた。
という本当に試合を視聴して声をあげた試合のメモを残したい。
前半戦と称する90分
2月に行われたラウンド16の第1戦は、ヨーロッパの勢力図が入れ替わったとだれもが思った。
パリ
シュート数21本
枠内シュート8本
ボール支配率57%
パス677本 成功率は91%
シュート数3本
枠内シュート0本
ボール支配率43%
パス510本 成功率は85%
マドリーは枠内シュート0本で90分を終えた。
マドリーが枠内シュート0本で試合を終えたのはいつぶりだったかまったく記憶にない。それほどショッキングなデータだった。
高い位置からプレスをかけたパリは、左を19歳のヌーノメンデスに一任し、右はハキミを高い位置にあげ、守備はダニーロペレイラがカバーする形とした。
信じられないぐらいにマドリーが何もできなかった。
幾度となく奇跡を起こしてきたレアルマドリードは、2ndレグをどう戦うのかだろうか。
勝つための1か月
0-1で破れた1stレグ。
次の2ndレグではアンカーのカゼミーロ、左SBのメンディーがサスペンションで出場できないことが決まっていた。
パリ戦に向けてメンバーを試すことはしないのかと問われたアンチェロッティ監督は「これまでも彼らがいないゲームはあったし、十分にやれていた」と答えていた。
たしかに、その間のリーグ戦3試合で意図的にメンバーを変えることもなく、アラベス、ラージョ、ラ・レアルと戦い3連勝を挙げた。
ラ・レアル戦では、怪我気味だったクロースはベンチ外となったが、カマヴィンガをスタメンから投入することができたのは良い材料だったと今なら言える。
メンバーはさほど変えなかったマドリーは、戦い方を変えた。
今シーズンブロックを作って固く守り、相手を引き寄せたところでベンゼマのボールキープとヴィニシウスのスピードでカウンターを発動させ、それが安定した勝利に繋がっていた。
しかし、パリ相手に2ndレグで勝利し、次のラウンドに進むためにはカウンターではない戦い方が必要だとアンチェロッティ監督は考えた。
それをチームに落とし込んだのがこの1ヶ月間だった。
モドリッチとベンゼマを筆頭に相手のビルドアップを前から前から潰しに行くマドリーを見たのはジダン政権以来だったが、思いの外うまくいっていた。
この戦術を最前線でこなしていたのが36歳のモドリッチと34歳のベンゼマであったのがこのレアル・マドリードというチームを象徴していると感じた。
年齢や在籍年数で、王様になるような選手はいない。マドリーがマドリーであるためにはそこにいる選手たちがマドリーに忠誠を誓わなければならないからだ。
パリ戦に向けて、相手を上回って勝つための策をわかりやすいほど明確に示し、1ヶ月間を費やして戦術の手応えを確かめていたが、そこには常にカゼミーロがDFラインの前にいた。
パリ戦ではカゼミーロ不在の問題をどのように解決するかが一つのポイントではあった。
助かったマドリー
助かったマドリー、と表現したのは結果論だったかもしれないが、本当にまさに結果としてはマドリーはパリの戦術に助けられた。
マドリーは、クロースをアンカーに、モドリッチとバルベルデをインテリオールに配置した。
リーグ戦ではカゼミーロの代役として配置されることの多いカマヴィンガではなく、クロースがアンカーに配置されたのは、ボールをなるべくパスでスムーズに運びたかったからだと推察される。
パリのビルドアップ時には、バルベルデとベンゼマを並べたハイプレス、最終ラインを高く保ち、相手陣内でのプレーを長く、ゴールに迫ろうという意思が見えた。
そのための1か月だったのだから当然だ。
左SBはワンクラブマンのナチョ。
メンディーの代わりにというにはとてもおとなしく、これは代わりではなく、今日のマドリーにはナチョが必要だったと今、ここで言っておきたい。
最終ラインを高く保つことで、圧倒的なスピードを持つエンバペが自由に飛び出せることはもはや承知の上。
そんなことはわかったうえでこの戦術を取っている。
一方のパリは1stレグで勝利しているアドバンテージからか、そこまで前からプレスをかけに来なかった。
マドリーの攻撃を受け、少ない手数でオープンスペースにエンバペを走らせる。非常に効果的で効率的で、マドリーの狙いを考えればこちらもまた当然の判断だった。
守備時は、4-3のブロックを作り、素早いスライドでマドリーをサイドに追いやるという形。何度か前線の3枚が戻るときもあったが、ほとんどはこの2ラインと前線3枚の間には連携は取られなかった。
カウンターを狙いにいくには、素晴らしい戦術であるが、マドリーにとっても狙っていた形であったことは後半を見ればわかる。
39分に見事にその高い最終ラインの裏を取り、先制点をあげたパリだったが、枠内シュートのそのほかのどれかがもう一点だけでも入っていればまた試合は違う形で後半に進んでいただろう。
前半は、支配率60%、枠内シュート4本とマドリーを上回ったパリだった。
カルロの交代策
前半を0-1で折り返した57分にマドリーは動いた。
クロースを替えてカマヴィンガ、アセンシオに替えてロドリゴを投入した。
クロースは怪我明けで、アセンシオは前半のボールタッチの感覚が不安定だったので、交代選手としては妥当ではあったと思う。
57分という絶妙の時間、その後の同点ゴールのタイミングからして、ペースを握ったら絶対に逃さないマドリーらしさが全開だった。
この交代によって何かが変わったわけではない。
むしろたいして変わらなかったことがこの後のドラマに繋がったのかもしれない。
前半のクロースは、後方でボールを受け、ロングボールではなく、短いパスでパリの隙をつくようなプレーをしていた。ボールを持つことで、リズムが作れるが、7枚が下がりカウンターを狙うパリにとっては守りやすかっただろう。
代わったカマヴィンガは球離れが速く、ボールを持っている時間よりも持っていない時間の方が多く、サッカーにおいてボールを持っていない選手の動きは気になるものなので、パリからするとカマヴィンガの次のアクションをいちいち見ておかなければならない。これは煩わしかっただろう。
現にクロースのタッチ数が56だったのに対して、カマヴィンガのタッチ数は17だった。
ボールタッチに不安のあったアセンシオは、ロドリゴに代わった。
右利きのロドリゴに代わったことで、縦への仕掛けが増えただけでなく、守備もアセンシオのときより良くなった。
一枚イエローカードをもらっていたカルバハルに代わって入ったルーカスバスケスは、今シーズン怪我を繰り返しているカルバハルよりもコンディションはよく、この勢いでハードにプレスをかけていくという選択を続けるにあたってバスケスの豊富な運動量と何にでも食らいつくメンタルは、同じく途中出場のロドリゴとあわせてこの時間帯のパリにじわじわとダメージを与えていた。
交代枠はこの3枚であったが、もう一つ手を加えたのがナチョとアラバのポジションを入れ替えたこと。
ベンゼマの1点目が入った後、アラバが左のSBに入り、かなり前線に顔を出すような時間帯があった。大外のスペースはヴィニシウスに任せ、ハーフスペースが中央にかけて高い位置をキープするアラバと、ミリトンの横にたたずむナチョの姿がけっこう個人的には印象的だった。
直接的にこの入れ替えが逆転に影響したかはわからないが、この勢いを無駄にしないために前から圧力をかける必要があったのは間違いなく、その役はナチョよりもアラバの方が適任だったということだろう。
パリの崩落
1stレグから150分間は完全にマドリーを圧倒し、狙い通りの展開で残り30分間を迎えようとしていた。
このままで良いとだれもが思い、ポチェッティーノですらやり方を変えなかった。
マドリーがこれから猛攻を仕掛けようとしていることはだれにだって想像がついたが、それまでの150分間が狙い通りにいきすぎたゆえに、ベターな選択肢が存在しなかった。
そこで起きたのがマドリーの1点目に関わるドンナルンマとベンゼマのアクション。
ドンナルンマに何が起きたのか。
そんなこと誰も知ることはできない。
ボールを受けて右に出そうとしたら、ベンゼマがハードにプレスに来たのでミスをしたというのが全世界に放映されたたった一つの事実である。そんなことはどうでもいい。
ポイントはベンゼマへのプレスに他のマドリーの選手が連動していたことだ。
ベンゼマが一人でプレスに成功していたとしてあのドンナルンマのミスキックを拾う術はあっただろうか。
これが1ヶ月間をかけて選手に意識つけたパリ必勝法だったのだ。
さて、これでもまだ1-2。
状況だけで言えばパリが有利。30分間を守りきればいい。
ただ、ここはスペインマドリードがサンティアゴ・ベルナベウ。
レアル・マドリードという世界が目標とし、羨望するチームがホームの後押しを受けて、すべてを投げ捨てて迫ってくる。
そんな状況を知ってパリが有利だと言えるはずがなかった。
パリはそれでも変えなかった。前がかりになるマドリーの隙をつけると思っていたのかもしれない。
エンバペは攻め残り、ネイマールとメッシは相変わらず中間ポジションをキープする。ボールをマドリーが持ち続ければ中間ポジションにパスは出ない。重く後ろで受け続けるパリは前線3人にこれまでの150分のようなフォローはない。
マドリーが攻撃→奪回を繰り返すことになる。
71分にゲイエが投入されたが、変わったのはカードをもらっていたパレデス。
中盤同士の交代は、一見するとベターのように思えた。しかし、この試合において決してベストではなかった。
なぜならば、マドリーが全員で追加点を取りにきている中で3人を守備から除外していたからだ。
ゲイエはメッシと変えるべきだった。
そして、ネイマールを下げて4-5のブロックを作るべきだった。
この交代がなされたことで、勝利のチャンスが巡ってきたと思った。
この時点ではまだ1点の差で勝っていたパリ。
しかし、この采配は守備陣にはあまりにも酷なものであったと思う。
ビルドアップのミスによる失点のフォローはしない、という監督からのメッセージだった。
72分のヴィニシウスの決定機のシーンもパリの不安を表すものだったとも思えた。
バルベルデがドリブルで2枚をはがしたとき、次のプレスは間に合わず、少し遅れてバルベルデと並走するヴェラッティの姿がハイライトを見るとわかる。
少しずつ少しずつ7人だけで守備をするパリの限界が迫っていた。
76分のベンゼマの2点目。モドリッチのドリブルにパリがプレスをかけられなかった。3人がモドリッチを囲んでいながらだれ一人ボールにアタックできなかった。
72分のバルベルデのドリブルへの対応よりも悪くなっていた。
最後は、直後のキックオフ。
パリは前線3人のだれかにすがるのみ。その気持ちをマドリーは完全に読み切っていた。パリのキックオフの瞬間に中央に集結し、一人目のプレスとなったロドリゴがボールをカット。
そのロドリゴがヴィニシウスにスルーパスを送ったことで、一気に展開をひっくり返した。
パスはずれ、ヴィニシウスの前に体を入れたマルキーニョスだったが、絶対にドンナルンマにはボールを下げられなかった。
超一流のDFが少し前に起こったことを忘れるはずがない。それぐらいの極限の状態だった。
あの場面、グラウンダーでまだつなごうと思っていたのか、クリアのミスだったのかはわからないが、マルキーニョスのプレーはパリを崩落させた。
レアル・マドリードとは
試合を見ているものは思った。
これこそがレアルマドリードだ。
白い巨人は、泥だらけになって勝利をつかんだ。
どんなに素晴らしい選手でも、マドリーの名を背負ったら、すべてを投げ捨てて勝利へ向かってがむしゃらに走る。
その姿を見ることができた最高の試合だった。
こんな試合は生きていて何度もお目にかかることができない。できないはずなのに、レアルマドリードは何度もそれを見せてくれる。だから追うことをやめられない。
最後に、ワンクラブマン ナチョについて。
今日も冷静だった。ダンディだった。
今日の試合はメンディーの代わりではない。ナチョが出るべき試合だった。
生涯をマドリーに捧げ、どんなときのマドリーも知っている。
スーパースターを間近で見続け、これからも奇跡とともに居続けるであろうナチョの姿がとても輝かしかった。
良い試合をしたあとのマドリーは次の試合高確率で悪い試合をする。
あまり期待せずに試合を待ちたい。
それでは!