負けるなら美しく ラ・リーガ第9節 vs バルセロナ
こんにちは。
tadashiです。
今シーズン初対戦。
スペイン国内だけでなく、全世界が注目する試合が日本時間10月23日23:15に行われました。
結果は、今のクラブ事情を表すかのような展開となりました。
プレミアリーグの方がスピーディだとかエル・クラシコですらこのレベルといったネガティブな声が聞こえてきましたが、これはエル・クラシコ。
試合の内容ではないサッカーを超えた文化と歴史の戦いなので、どちらが勝つか、どちらが勝ったかというのが重要です。
と、言いつつもそれではこのブログは「レアルマドリードの勝利!良かった!」で終わってしまいますので、今シーズン初対戦のクラシコを振り返りたいと思います。
スタメン
両チームのスタメンはこちら。
バルセロナ ホーム
テア・シュテーゲン、ミンゲサ(⇒46’コウチーニョ)、ピケ、エリガル、ジョルディ・アルバ、ブスケツ、フレンキー・デ・ヨング(⇒77’セルジロベルト)、ガビ(⇒85’ルーク・デ・ヨング)、デパイ、ファティ(⇒74’アグエロ)、デスト
レアルマドリード アウェイ
クルトワ、バスケス、ミリトン、アラバ、メンディー、カゼミーロ、モドリッチ、クロース、ヴィニシウス(⇒87’アセンシオ)、ベンゼマ、ロドリゴ(⇒72'バルベルデ⇒90+1’カルバハル)
詳しくは下記フォーメーション図参照
シンプルな構図
久しぶりの有観客
満員のカンプ・ノウ
両チームのオフの振る舞いは、サッカー界に衝撃を与えた。
バルサはメッシ、グリーズマンを放出し、デパイとルーク・デ・ヨングを獲得。
マドリーはヴァラン、セルヒオ・ラモス、そしてジダンと別れを決め、ダビド・アラバをフリーで、カルロ・アンチェロッティを監督として迎え入れた。
字面だけでもネガティブな印象のほうが強い。
メッシというスーパースターがいなくなり、マドリーからもカピタンがいなくなった。日本でのラ・リーガの盛り上がりは、やはりこのクラシコにかかっているかもしれない。
試合は非常に明確だった。
お互いのゲームプランを4局面(攻撃、ネガティブトランジション、守備、ポジティブトランジション)それぞれに切り取って簡単に表してみようと思います。
[バルセロナ]
攻撃
ボールを保持して、前線のファティやデパイに繋げてフレンキーを絡めて手数をかけて攻める。
ネガティブトランジション
カウンター受け放題。マドリーの前線にボールが入ってからCBががんばる。
守備
マドリーのGKクルトワを除いて前から人にマンツーマン。スペースではなく、人に基準を置いた守備。
ガビを一列前に上げて、カゼミーロをマンマーク。
ポジティブトランジション
速攻はなし。GK、CB、ピボーテを絡めてそれぞの初期配置を取り戻す。
[レアルマドリード]
攻撃
後ろ前関わらず左に集めてオープンスペースの右へ展開。カゼミーロは邪魔をしないようにベンゼマの後ろへ。
ネガティブトランジション
ボールロスト後1人か2人は一度は追うが深追いはしない。
守備
4-1-4-1もしくは4-4-2でブロックを作り、引いてバルサの攻撃を受ける。
ポジティブトランジション
高速カウンター。
およそ2タッチ程度でベンゼマ、ヴィニシウスへボールを渡す。走れる選手がフォロー。
両チームとも後半の中盤ぐらいまではゲームプランどおりに試合を進めていた。
左から攻めたい
「左から攻めたい」「左で形を作りたい」というのは、この試合両チームに共通していたゲームプラン遂行のための手段だった。
バルサの左
バルサは、左にいるデパイがボールを持ち、ファティやフレンキーとの連携でペナルティエリアに侵入したかったように見えた。
開始からしばらくはバルサがボールを持ち続けた。4-1-4-1、4-4-2のブロックで守るマドリーに対してマドリー陣内でのプレーを見せる。
ここでのキープレーヤーがフレンキーとファティ。
バルサはマンツーで人数をかけるマドリーに、人を引き連れてフレンキーが移動し、空いたスペースにファティが下がるというプレーがあったように、ボールを前進させる方法は選手同士がバルサイズムのもとに実行できていた。
前進したボールは左に集め、デパイのボールキープを餌にマドリー守備陣をバルサの左サイドに寄せながらジョルディ・アルバ、ファティの裏への飛び出しをちらつかせ、マドリーのライン自体を下げる。
下がりきったラインはゴール前を固めるが、後方に待つブスケツにはプレスが間に合わず、常にフリーの状態でブスケツが左右に展開することができていた。
この日のバルセロナは、ここまではとても円滑だった。
ただ、シュートまでの形がなかっただけだ。
さて、ではなぜバルサがシュートまでいかなかったのか。せっかくボールを高い位置まで運べているのに。
それはおそらく2つあって、ハーフスペースにチャンスメイカーがいないことと、ゴール前に人がいないこと。
1つ目は、クーマンがこの試合フレンキーとガビの位置を入れ替えたことが原因と思われる。
対モドリッチを17歳のガビに任せるのは酷だと判断したクーマンの優しさなのかもしれない。しかし、本来ゴール前にダイナミックに入り込むことが持ち味のフレンキーがファティやデパイとともにボールに絡み、逆サイドに展開するためのプレイヤーとなってしまい、ハーフスペースで周囲と連携するガビがこの試合はデストとともにマドリーと同数でガチンコ勝負を行うことになってしまった。
2つ目は、フレンキーが左サイドでクーマンの采配に軟禁されていたこととファティが下りたスペースに入る人がいなかったことが原因だと言える。
どこがで聞いたような話だ。どこかのレアルマドリードが昨シーズンに陥った問題と似ている。というか同じだ。
特にバルサは深刻で、左で持てば持つほど、マドリーの右サイドの守備は強固になってしまった。
マドリーの左
IHとCFの縦の動きでマークをずらしたバルサとは異なり、レアルマドリードは大胆にレーンを移動するこれまでのビルドアップで、バルサと同じく左から攻撃を仕掛けた。
①メンディーとクロース
ジダンマドリーのときから頻繁に見られたポジション移動。
メンディーが敵陣ハーフスペースまで上がり、SBが元々いたスペースにクロースが下がりビルドアップを行うというもの。
序盤はバルサにボールを持たれていたのであまり見られなかったが20分を過ぎてからようやく見られた。
マンツーマンの守備に対して、どこまでついてきますか?との問いかけができるのが良い。
だいたいクロースがフリーになるのでクロースが好きなように展開していくのだが、この試合はヴィニシウスがファーストチョイスとなった。
②メンディーとアラバ
これは今シーズンから見られる形。インタビューでアラバが、メンディーは自分のフォローをしてくれるから前に出られると言っていた。
出れるタイミングではアラバが持ち上がり、メンディーが後方をケアする形だ。
この試合では得点シーンで見ることができたが、アラバの前進に対してメンディーは上がることはなく後方をキープしていた。
これもメンディーにマークがつけば、アラバの前は比較的スペースが空いてくるというアラバのボールタッチの技術、パスセンスを活かせる動きだろう。
この試合ではゴールを決めてしまったが。
これらにより、レアルマドリードは同じく自分たちの左サイドにバルサ守備陣を集め、空いた右サイドのスペースを活用した。
そしてこの試合もっともバルサを苦しめ、マドリーの生命線となったのがヴィニシウスからの仕掛けだ。
ボールを持てばミンゲサを圧倒し、キープも突破もヴィニシウスの思うタイミングで行っていた。
特筆すべきは20分のペナルティエリアに侵入し、倒されたプレー。
足の裏でボールを転がしながらDFの股を抜き、ペナルティエリアに侵入したら細かいタッチで鋭角に二人のDFの間を割って入った。
この日のヴィニシウスはサイドライン際ではフットサルプレイヤーのような足さばきを見せていた。
また、マドリーはバルサのマンツーマンでのハイプレスに対し、シンプルにバルサDFラインの裏へロングボールを出すシーンが何度か見られた。
その取っ掛かりもヴィニシウスで、開始早々2、3分にパスは出なかったがはっきりと裏へ抜け出したヴィニシウスがいて、13分にはその意志を読み取ったアラバがヴィニシウスの抜け出しに合わせてロングボールを放っていた。
ミンゲサがSB本職ではなく、何度かワイドに張るヴィニシウスから視線を切ってしまうことがあり、「まずは守備から」考えた右サイドは逆にマドリーの攻めどころになっていた。
25分以降
試合が加速化したのは、バルサが決定機を作った25分から。
おそらく勝敗を決めたとも言えるシーンだったと個人的には思う。デストが気の毒。
ただ、このシーンはマドリーもバルサに対して前からマンツーマンではめにいったところを中央を空けられ、緩いボールで前線のデパイにつけられたところから始まっている。
おそらくFWに対してミリトンやアラバもアタックするような守備を決めていたのだと思うが、後ろにフォローがない状態で、インターセプトを狙うのはミリトンのミスだっただろう。
前を向かせない、という選択肢を取りたかった。
これ以降、バルサは前からのマンツーマンディフェンスがかからなくなり、マドリーのCBが簡単に人を剥がして運べるようになった。
なによりカゼミーロがビルドアップを邪魔しないようにマークを引き連れて前線に上がってくれていた。
しかし、この日のマドリーは明確にバルサの攻撃を狙っていた。
それが32分のアラバの得点シーンだった。
前半から何度も見られた左サイドからの展開。
中央で受けたデパイのドリブルが大きくなったところをアラバがアタック。
デパイからアラバがボールを奪った瞬間にマドリーの攻撃はスタートした。
アラバは左にいたヴィニシウスにボールを預けそのまま前線へ駆け上がる。左サイドを縦にスプリントし、DFを振り切ったが、ヴィニシウスは同じく同時に走り出していた右WGのロドリゴを選択。
中央よりに位置していたロドリゴが1トラップしたのちに、完全にフリーで抜け出していたアラバへスルーパス。
ボールを受けたアラバは寄せに来るDFとゴールマウス、そしてボールを何度も確認して美しいフォームでボールを押し出した。
それはまた美しい軌道でテア・シュテーゲンの手をすり抜け、心地よい音色をゴールネットから呼び起こした。
マドリーでの初ゴールはエル・クラシコでの先制点。持っている男は違う。
彼は、フリーでバイエルンからマドリーに加入している。
後半のクーマン
前半のバルサは、いや、前半のクーマンは、レアルマドリードのカウンターへの対策をまったくチームに落とし込んでいなかった。
高い位置を取るSBのせいで、カウンターを浴びるとCBvsベンゼマ、ヴィニシウスという質的に不利な状況でかつ両CBは下がりながらの守備に追われていた。
さすがにこのままではまずいと試合を見ている素人の我々も感じたほどだった。
やはり当然ながらクーマンは後半開始から動いた。
ミンゲサ⇒コウチーニョ
デストを右SBに落とし、ガビを右に置いた4-2-3-1のシステムとした。
守備は4-2-3-1のままマンツーマンを変えないスタンス。
ただ、守勢に回らず攻撃的に。
コウチーニョを投入した前線は、たしかに引き気味に構えるマドリーに対して何度かチャンスを作っていた。シュートが枠に飛ぶ回数も増えていた。しかし、そのほとんどはクルトワの正面であったり、シュートブロックされたりと25分にあった決定機ほどのチャンスは訪れなかった。
逆にボールを持ちたいプレイヤーが二人に増え、後半はスピード感がなくなり、より攻撃が停滞してしまった印象を受けた。
デストに変えた右サイドの守備は前半と変わらずマドリーのカウンターを受けていた。
後半に関しては、両チームともしまりのないものだった。
収まらないボール、上がら切らないスピード、GKに届かない攻撃など最高峰のゲームとは言えないようなそんな45分だったと言ってしまいたい。
それでも勝ったのはレアルマドリードだというのは紛れもない事実。
それだけでいいのさ。
美しさとは
バルセロナのレジェンド ヨハン・クライフの言葉にとても有名な言葉がある。
「負けるなら美しく」
「美しく勝利せよ」
サッカーというのは美しくなければならない。
5点差で勝利しているならシュートをバーやポストに当てたほうが盛り上がる、そして美しい。
バルセロナは美しく負けることができただろうか。
後半73分から出場したアグエロがロスタイム7分にあげた得点はデストの突破も含めてきれいな形だった。
この試合唯一デストがメンディーに1対1で勝ったそのラストプレーが得点を生み出した。
ワンタッチで輝いたアグエロも素晴らしい。さすがはマンチェスターシティの最多得点記録保持者だ。
クーマンは、ルーク・デ・ヨングとピケを前線に並べてクロスを放り込んだが、バルサの正解はそうじゃないと自らの選手たちが反発したような美しさを感じた。
レアルマドリードは美しく勝利できただろうか。
どんな戦い方でもハイレベルにこなすマドリーは美しいカウンターでゴールネットを揺らした。縦に急ぐのであれば、ヴィニシウスからそのままアラバにスルーパスを出しても良かったのにも関わらずマドリーは中央を経由した。
そちらの方がバルサDFの守備を惑わすことができたからだ。
2点目は、両チームとも中盤がルーズとなった展開からバスケスが泥臭くゴールをあげた。
体を張った守備からのカウンターは、自陣ゴール前からボールが前に運ばれるごとに私たちの心を熱くし、感情を高ぶらせた。
交代したアセンシオがカウンターのために飛び出したことも、右SBのバスケスがアセンシオのシュートに反応したことも形は美しいとは言えないもののその展開は美しいとしか言いようがなかった。
雑感
銀河系レアルマドリードに魅了されて、レアルマドリードの沼にハマってしまったので、これまで数々のクラシコを見てきた。
新しい記憶ではベンゼマのヒールシュートやマリアーノの角度のないところからのゴール、古い記憶はロナウジーニョのベルナベウでのスタンディングオベーションやフィーゴへの豚の頭投げ込み。
少ししかサッカーを知らない人でも試合があれば気になってしまうこのクラシコは今でも価値は高いと思わせる。
この試合は、バルセロナとレアルマドリードのクラブとしての現在地を表すのに非常に適した試合だった。
バルサはどうしたんだ。
やっぱりマドリーはこれだ。
会長の手腕なのか、率いた監督たちの差なのか、ファンの違いなのかそれはわからないが、クラシコ4連勝というのは自分の記憶にはない。
これはマドリーにとってもだが、バルサにとっても相当な事態なんだと思っている。
マドリディスタの私からすれば素晴らしい朝であったし、ハイライトを見直すぐらい浮かれているので、やはりクラシコの勝利はいろんなことを有耶無耶にできる存在である。いまだに。
最後にマドリー目線で、マドリーのことを。
この10月までの約2ヶ月半で今期のマドリーの方向性が見えてきた。
強豪との試合、勝利が絶対に必要な試合、またはボールポゼッションをするチームとの試合では、今回のクラシコのように相手にボールを持たせ、鋭いカウンターで最小得点差で勝利を狙い、
リーグの中位以下との対戦ではマジョルカ戦のようにボールを握り、大胆な采配でチームのモチベーションを上げるような試合を狙うだろう。
戦い方は違えども共通しているのはゲームを支配すること。
アンチェロッティ監督は、相手チームと自らが抱える選手たちの特性を見て、ゲームを支配するために試行錯誤を見せていた。ようやく方向性が定まったのではないかと思っている。
一つだけ心配なのは、シェリフとエスパニョールに負けたようになんでもない試合で勝点を落とすこと。
今シーズンはこれをなくしていけばラ・リーガの覇権奪回も十分に手が届くはずだ。
とにかくこのクラシコの勝利は今シーズンを優位に進める大切な勝利。今シーズンもレアルマドリードは王者に最も近い存在だ。
Hala Madrid!!
それでは!