~SBとは何だったのか~ マンチェスターシティvs ウェストハム PL第1節
こんにちは。
tadashiです。
プレミアリーグが開幕しました。
遅ればせながらマンチェスターシティの開幕戦をフルで視聴しました。
今シーズンもよろしくお願いします。
さっそく目次です。
出会いと別れ
日本では、3月から4月にかけて出会いと別れの季節と言うことがあるが、ヨーロッパでは7月から8月にかけての移籍マーケットの期間を出会いと別れの季節と私が呼んでいる。
マンチェスターシティからは、この5年間でプレミアリーグ4回優勝に貢献した3選手が他チームに活躍の場を移した。
スターリングがチェルシーへ、ジェズスとジンチェンコがアーセナルへ移籍した。
ジンチェンコへの思いを込めた記事はこちら
一方で、ドイツブンデスリーガのドルトムントからノルウェー代表ハーランドを、リーズからフィリップスを獲得した。
待望のストライカーとフェルナンジーニョの後釜候補をさらっと迎え入れ、盤石の布陣を整えたかと思いきや、SBの補強はなく、ウォーカーとカンセロの2人だけでシーズンインしてしまった。
狙っていたククレジャはチェルシーへ。
8月末まで移籍期間は残っているが、マンシティの戦略はいかに。
消えたSB
マンチェスターシティの開幕戦のフォーメーションは3-2-5もしくは2-3-5だ。
違います。4-3-3らしいです。
どこがだよ!とつっこみを入れたくなりますが、4-3-3のようです。たぶん試合中一度もDF4枚が並んだことなかったんじゃないかと思う。DFラインとはCB2枚のことを指す言葉に変わったのかもしれない。
アンカーロドリのはずだけど、ウォーカーとカンセロのダブルボランチにしか見えない。
ロドリはCBの間に入ったり、CBの左脇に落ちたり、ダブルボランチの横に回ったりしてパスコースを作り出していた。
ロドリを経由するビルドアップが一時期狙われていたが、もはやロドリを使わなくても良いビルドアップに切り替えたようだ。
前半の途中では、アケやルベンディアスがダブルボランチ(ウォーカーとカンセロ)の横まで上がってきて横パスをもらうシーンがあった。いや、それ本来SBのいる位置ですけど。
ウェストハムも最初ロドリを消すような4-5-1でブロック作ってたけど右WGボーウェンが加勢して3枚でビルドアップを阻害しようしとしていた。全然無理だったけど。
ロドリをネガトラ要因として機能させようとしているように見えたのは自分だけだろうか。もしくはビルドアップの出口に放り込む役割(リーズでフィリップスがやっていたプレー)も持っている気がする。
なるほど。
フィリップスがそのまま入っても十分やれそうだ。
ということで、箇条書きで前半のマンチェスターシティの2-3-5の特徴を羅列する。
- SBはダブルボランチとして振る舞う
- CBは外に開き、ダブルボランチの横に上がりサポート
- アンカーロドリは、ビルドアップの直接の関与から外れる
- ロドリはネガトラに集中
- ハーランドと同一レーンにいて良いのはアンカーロドリだけ
- 本来のSBの位置にはWGが下りるか、IHが開く
- カンセロが上がれば、ギュンドアンが下がるが、同一レーンでの入れ替えではない
- 左サイドの不始末はギュンドアンが引き受ける(右はウォーカーとロドリ)
- 一応、WGが絞れば大外レーンはSBが担当(本当に時々)
と、羅列してみると、いつかだれかが5レーンはもう古いなんてことを言っていたが、ペップシティは7レーンぐらいでピッチを考えていそうだなと思った。
昨シーズンまでのハイインテンシティによるスピードと体力勝負の守備が一変して省エネサッカーになった気がする。
相手がウェストハムだからだろうか。そこは続けて見ていく必要がありそう。
ところで、前半はフォーデンがあまり目立たなかった。右から左への展開が多くて、その不始末をギュンドアンが背負っているので、マンチェスターシティからギュンドアンとベルナルドシルバがいなくなったらたぶん勝てない。
水(ハーランド)を得た魚(デブライネ)
まさに一撃必殺
今シーズンのマンチェスターシティは、デブライネも必殺技として前に残すことにしたようだ。
マンチェスターシティの試合で縦パス2本で得点となったのは、ダビドシルバがスパイクのアウト気味にボレースルーパスをジェコ?に送ったシーン以来見ていない気がする。
一応、ギュンドアンとデブライネの両IHがハーランドとほぼ同じ位置まで上がっているが、ギュンドアンには「カンセロが上がったときの後方のスペース処理」と「カンセロとグリーリッシュがやらかしたときの後始末」という役割を与えられているので、意識する方向が前だけではない。
それなのに、61分の決定機のように右からのクロスに対してゴール前に飛び込んでいる。ギュンドアンとはよほど恐ろしい男だ。
デブライネに関しては、「前を向いて走り出したハーランドにスルーパスを出す」という指示だけで試合が決められそうな選手にすでになっている。
仮に下がってゲームを作ってくれと言われても、ネガトラで守備にも走れと言われてもできる選手なので、攻撃に特化なんてさせたら鬼のごとく得点に絡むと思う。余力がある。2点決めた後はサイドに流れることが増えてボール触りたくなったのかなと思った。
ちなみに一番つらい思いをしたのはたぶんアケ。
ビルドアップのつまったところのはけ口とされ、左サイドのぽっかり空いたスペースをすべて任される。ラポルトやストーンズでできるだろうか。
この試合守備の分担はおよそ以下の通り
・右サイド ウォーカーとロドリとルベンディアス
・中央 ルベンディアスとロドリとアケ
・左サイド アケとギュンドアン
なんでだよ!とアケは心の中で叫んでいたに違いない。
ウェストハムは災難と言わざるを得ない。
前半ロドリをマークしたら、SBがダブルボランチとなり、後半両SHがダブルボランチについたらロドリが空いた。
マンシティの戦い方はギュンドアンに負荷がかかる。
終盤はそこが狙い目かと思いきや、残り10分ぐらいで出てきたのはベルナルドシルバと希望に燃えたアルバレス。最悪としか言いようがない。
ここ数年開幕戦はあんまり良くなかったマンチェスターシティにしては最高のスタート。ハーランドの入った攻撃だけでなく、昨シーズン鍛え上げたネガトラ時の即時奪回もだれもさぼらない。
てっきりリバプールのようなストーミングも織り交ぜたポゼッションというハイブリッドに近づいていくのかと思ったらとんでもないことを考えていたペップ。
変態だと思う。
今シーズンも思いっきり楽しめそうだ。
それでは!
ジンチェンコに愛をこめて
こんにちは。
お久しぶりです。tadashi(ただし (@tadashi0716) | Twitter)です。
ついに来てしまった
ついにこの日がやってきた。
ジンチェンコがマンチェスターシティを去るそのときが。
移籍先はアーセナル。
監督は、ペップの下でアシスタントコーチをしていたアルテタ。
少し前にジェズスが移籍したが、まさかこの短期間でジンチェンコまでいなくなってしまうとは思わなかった。
ジンチェンコは、その明るいキャラクターとは異なり、非常に努力家で、レンタルバックから主力をつかみ取ったマンシティでは希少な存在であり、また、これまで経験していないSBでのプレーを受け入れ、マンシティで存在感を放ちました。
先のロシアウクライナの戦争は心がいたみました。ジンチェンコは到底サッカーをしている精神状態ではない中でもマンシティでプレーし、プレミアリーグ優勝をはたし、ウクライナ国旗を世界中に示した姿は胸にこみあげてくるものがあった。
さて、2年前の2020年8月に私はこんな記事を書いている。
※ジンチェンコのパーソナルな部分もこの記事に書いてあるので参照いただきたい。
「ジンチェンコがIHでプレーするべき3つの理由」
前提として僕はジンチェンコのことが好きだ。
マンチェスターシティでプレーすることを望み、そのためにSBの選手としてスキルや戦術を会得しようと努力している姿はやはりかっこいい。
だれよりも熱く、一昨シーズンのPSG戦でのディフェンスは本当に心からチームを勝たせようという気持ちを感じたし、決勝進出の涙もそう。昨シーズンは最終節のドリブル突破からロドリのゴールをアシスト。相手陣内でのかけ引けの成長も見られた。
このちょうど2年前は、ダビド・シルバが退団し、スペインに戻ることが決まった時だった。
この時私の心の中に渦巻いたのが、ジンチェンコがIHとしてプレーするチャンスが来るのではないかということだった。
ダビド・シルバと同じ左SBでポゼッションをけん引し、左サイドに安定をもたらしたジンチェンコがそのまま左IHでダビド・シルバの穴を埋めることができるとわりと本気で信じていた。
詳しくは上の記事を読んでいただきたい。
さて、前置きが長くなってしまったが、今回はジンチェンコに愛をこめて、20-21シーズンと21-22シーズンにおけるジンチェンコにスポットを当てて、どれだけジンチェンコがマンチェスターシティに貢献してきたかを語りたいと思う。
いなくなる選手のことを書くのは寂しい。
ジンチェンコのこと
※先のブログ記事から抜粋
この中では、ジンチェンコのかわいらしい一面も記されています。
ぜひご一読を。
ジンチェンコのキャリア
今日の主役ジンチェンコのパーソナルデータをご紹介します。
本来攻撃的ポジションであるはずなのに、SBというポジションを受け入れ、一時期レギュラーにまで上り詰めたジンチェンコ。そんな彼を私は彼がシティにやってきたときから気になっていました。
プロフィール
出身国 : ウクライナ
身長 : 175cm
年齢 : 23歳(1996/12/15)
背番号 : 11
キャリア
プロ契約まで
地元ラドミシュルのクラブチームでサッカーを始めたジンチェンコは、13歳の時にシャフタールの下部組織に移籍。14歳までプレーしましたがトップ昇格できず、FCウファというロシアのクラブチームとプロ契約を結びました。
シティへの移籍
そこからシティへの移籍は思いの外すぐでした。
2016年7月4日(私の誕生日の12日前)ロシアからイングランドプレミアリーグへ移籍します。
2008年にアブダビ資本を手に入れたマンチェスターシティは、CFAを開設したり、様々な国とCFGを提携したり、大きく動いていましたが、その他にも未来のシティの選手を育てるために、若い選手を買い、試合の出れる環境へすぐさまレンタルするという手法を取っています。(今もやっており、日本では板倉や飯野がその対象になっています)
さらには、シティはこのようなやり方でマンチェスターシティでの試合経験がない選手を売却し、多くの利益を得ています。(サンチョもその一人ですね)
ジンチェンコも19歳そこらでマンチェスターにやってきました。そこからすぐにオランダのPSVへレンタル。主力選手としてチームの攻撃を牽引しました。
シティに残留したのはその翌シーズンの17-18シーズン。獲得当初から中盤の選手として期待されていましたが、そのシーズンにメンディーの負傷によって左SBとして起用され、攻撃的MFのSBが誕生です。
ペップがバイエルンを率いていたとき、アラバとラームをSBで起用する偽SBという戦術が話題になりました。私はその当時「戦術」なんてことに興味もなく、ただボーッとサッカーを見ていたことを覚えています。元々学生時代はずっとSBでプレーしていたのですが、その世界のトレンドと自分のプレーはなにもリンクはしませんでした笑
ジンチェンコのSBは偽SBとして有効でした。左WGのサネ、スターリングやIHのダビド・シルバと巧妙にトライアングルを形成し、ボールを前進させていました。
ある程度出場機会も得ることができ、現契約は2024年まで残っています。
また、19-20シーズンからは背番号を11番としています。なぜ、11番なんでしょうね。
ボールの扱いはやっぱりうまくて、サイドでパスを繋ぐことはなにも問題ないのですが
大外のレーンでボールを受けたときの選択肢の少なさはやはりメンディーと比較すると物足りない。サイドを突破する選択肢もありながら中へのパスが出せる方がSBとしては幅が広がるでしょう。
今シーズン(19-20シーズン)のスタッツ
プレミアリーグでのスタッツです。
19試合出場(うち13試合に先発)
パス成功率 91%(1097本)
タックル成功率 61%(19回)
クリア 19回
インターセプト 17回
レッドカード 1枚
ゴールもアシストもないのが少し寂しいです。
ジンチェンコの役割とその特徴
マンシティのSB
この2シーズンでは、ほぼすべての出場が左SBであった。
カップ戦でIHでの出場もかすかに記憶されるが、もうほぼ左SBとしての出場と思ってもらって問題がない。
マンチェスターシティのSBは例外なく、”偽SB”という言われ方をしている。
元来言われるSBのようにサイドに張り、オーバーラップを繰り返すようなプレーではなく、自分のひとつ前のポジションの選手の位置、相手チームの守備の位置、CBやアンカーとの距離、ボールの位置を見て、内側や外側と様々な場所でボールを呼び込み、配球するプレーが基本となる。
モナコからメンディーを獲得したペップはダイナミックな縦への推進力を持つ彼にさえも偽SBとしての動きを求めたぐらいだ。
ペップの中でSBはSBではなく、攻撃における司令塔の一人と考えていたと思う。
マンチェスターシティにはSBが3人いるが、ジンチェンコの役割、特徴はなんだろうか。
ウォーカーやカンセロはジンチェンコよりもわかりやすく映っていると思う。
例えばウォーカーの役割はなんといっても被カウンター対応のための後方配置だし、カンセロはラストパスもしくはラストパスに繋がる一つ前のパスを出すパサー。
特徴で言えば、ウォーカーは圧倒的なフィジカルと危機察知能力、カンセロは足元のテクニックと長短の質の高いキックと言える。
それではジンチェンコの役割と特徴は何か。
役割はビルドアップの安定感
である。
この2シーズンは、ジンチェンコ自身のコンディションであったり、ロシアウクライナの問題であったり、カンセロのブレイクであったりと、ジンチェンコは1シーズンを通してスタメンで出場し続けていたわけではない。
それでも彼が試合に出ているときにだれもが思わず考えたことがある。
”これで後ろは安定する”
今シーズンのプレミアリーグで、ジンチェンコが途中から出場したときに、解説の戸田さんが「これで後ろが安定しますね」と言っていて、ジンチェンコが左SBに入るとチームとしての安定感が増すことが広く知れ渡ってきていると思った。
直近だとCLレアルマドリード戦2ndレグでの途中交代。
SBをカンセロとウォーカーにしていたマンシティは、ウォーカーの体調を考慮して後半途中でジンチェンコを投入。するとそれまで停滞していた左サイドから中央へ簡単に通り、マフレズのゴールが生まれた。結果は負けてしまったがあれはレアルマドリードがすごすぎた。
では、なぜジンチェンコが左SBに入ると安定するのか。
それは二つある。
1つはサイドで体を開いて受けられるから。
もう1つは中央で背を向けて受けられるから。
アーセナルではどんな役割なのか。
特徴はグラウンダーのパス
そして左SBでのジンチェンコの特徴がこれだ。
シティズンならこれまで幾度となく見てきたことだろう。
センターサークル付近にいるCBから左に開くジンチェンコにボールが渡り、前を向いたジンチェンコが相手の中盤とDFラインの間に実に見事にグラウンダーのパスを通すシーンを。
これこそが最大にして最高のジンチェンコの特徴だ。
マンシティでのジンチェンコを何試合か見てもらえればわかるがロングボールが異様に少ない。サイドチェンジする際は、ロドリかCBをあえて経由してディフェンスをさらに自らのサイドに寄せている。
丁寧に正確にサイドチェンジ後のフリーな時間を作るための一手間をジンチェンコは行っている。
ロドリの横に入ったときも同様にロングボールはほぼ使わない。
ジンチェンコがロドリの横でボールを受けるのはジンチェンコ自身がボールを散らすことが目的ではない。
ジンチェンコに人をつかせて、他をフリーにさせるための動きである。
特に、マンシティのビルドアップがロドリを確実に経由するということが一時期相手チームから対策されていた時期があったが、ここをサポートしたのがジンチェンコであった。
彼がロドリの真横に移動することで、ロドリへのパスコースを消すだけでは中央からの侵入を止められず、たまらずサイドのプレーヤーがジンチェンコをマークしに行くとCBからWGへボールが配球される。
ジンチェンコというのは横の動きだけで、ゲームを落ち着かせる魔法使いのようだ。
そして上でもあげているタッチライン際からの中央へのグラウンダーのパスは、受け手側がこの数年で変化してきたが、今でも変わらずマンチェスターシティにおけるビルドアップから崩しに移行するときのスイッチと言っても良い。
このスイッチももうマンシティでは押されない。
20-21シーズン
さて、ここからはジンチェンコの貢献具合を見ていきたいと思う。
各コンペティションの出場記録
まずは20-21シーズン。
さっそくこの表を見てもらいたい。
これは20-21シーズンにおけるジンチェンコの出場数をまとめたものだ。
特筆すべきはプレミアリーグとチャンピオンズリーグ。
特にプレミアリーグは、前半戦の出場がほぼ0だった中でこの数字。後半になるにつれジンチェンコの精度の高いパスが信頼されていった。
チャンピオンズリーグでは、9試合に出場。マンシティは決勝まで進み計10試合を行ったが、ジンチェンコは9試合に出場。
このシーズンの左SBのレギュラーメンバーは間違いなくジンチェンコだった。
詳しくは下記ブログに書いているので、読んでもらえると飛び跳ねて喜びを爆発させると思います。
スタッツ
続いては、各コンペティションのスタッツを偉大なるSofaScore様から抜粋させていただいた。
特徴的なのは、平均90%を超えるパス成功率からわかるとおり、パスの正確性と判断の的確さ。
総パス数におけるロングボールの割合も低く、近くにパスコースが見つけられないことがほとんどなく体の向きとファーストタッチ、そして正確なインサイドキックで確実にパスを通している。
もう一つはクリーンな守備。
4つのコンペティションを戦いながらもイエローカード1枚のみ。ディフェンスの選手としては異常なほどだ。
決して守備をさぼっているわけではないのは、ジンチェンコを愛する皆様ならよくわかっていることだろう。
不器用でがむしゃらな守備は彼が愛される理由ではあったが、もう見られない。
そのがむしゃらさを対戦相手として見ることになる。
プレースタイル
プレミアリーグの話だが、このシーズンは15節まで出場が0であったが、それ以降は20試合に出場している。
下に示しているのは20-21シーズンのプレミアリーグのヒートマップだ。
自陣ではサイドに開き、ポゼッションしながらボールを前進する際には内側へ入っていることが読み取れる。
このシーズンのプレースタイルは”パスで相手を出し抜く”という言葉が一番合っていたと思う。
相手を複数枚自分に引きつけてからその間を縫うようにディフェンスの背後にボールを配球するジンチェンコのパスは芸術だった。
インサイドキックのフォームが美しく、そのフォームはトラップするときの姿勢と同じであり、パスかトラップかぎりぎりまで判断してから行動できる。ディフェンスからするとトラップするのか、ダイレクトでパスを出すのかわからない。
ディフェンスが行けばジンチェンコはダイレクトプレーを選択し、こなければトラップしてパスコースをまた作れば良いだけ。
この言葉にすると簡単なプレーが高いパス成功率を可能にした。
芸術は、もう見られなくなってから価値が増す。
ジンチェンコ's ベストゲーム 3選
1.プレミアリーグ第17節 vs チェルシー
最初に選ぶのはこの試合。
ジンチェンコがフル出場しています。
試合内容は下記ブログ参照。※実際は17節ですが間違っています。
第2節から15節までにフル出場が一度もなかったジンチェンコは17節でようやくフル出場。
タイミングもすごかった。
メンディーがコロナ禍でのパーティ参加、ウォーカーのコロナ感染という中で、得た出場機会だった。
ベストゲームであり、20-21シーズンのターニングポイントだと思っている。
プレーとしては3得点のうち2得点に絡む活躍。
タッチライン際から中央への伝家の宝刀が出ている。”左SBジンチェンコ”の最も得意なプレーで、マンシティの他のSBにはできないこと。
守備面では、31分の決定機回避のプレーが光っていた。
一人でアスピリクエタとドリブルを始めたマウントを見る形になったジンチェンコは一瞬の判断で、マークを捨てマウントを止めにかかった。
おそらくドリブルを許し、パスを通されていたら決定機となっていただろう。
2.プレミアリーグ第27節 vs マンチェスターユナイテッド
この試合マンシティは負けている。この試合の敗戦で、直近4戦0勝。
試合としては悪いマンシティがよく表れた試合だった。
その中でもパス成功率92%、インターセプトを2回記録。
なによりも相手をひきつけて、ダイレクトとトラップを直前で判断する正確なモーションのパスでユナイテッドの選手を置き去りにするもう一つのジンチェンコの伝家の宝刀が発動。
これがあるからジンチェンコはSBの位置で、ペップに使われる。
後方で時間を作り出せる選手がジンチェンコだ。
3.チャンピオンズリーグ準決勝 vs PSG
そして最後がこの試合。
これはもう言うまでもない。1stレグも2ndレグもジンチェンコは最高だった。
ネイマールのドリブルを止めて、ストーンズと胸をぶつけ合ってみせたあのシーン。
エデルソンからのキャノン砲に反応し、アシストをしたあのシーン。
思い返すだけで心が震える。
マンシティ初の決勝進出に向けて、ファンも含めて負けられない、いや、絶対に勝たないといけない試合だったのだから。
言葉にするとすべて陳腐になってしまう。
それほどまでにこの試合のジンチェンコは、今後のシティでの成功を見せてくれる姿だった。
だからこそ
寂しい
21-22シーズン
各コンペティションの出場記録
つづいて、21-22シーズンをまとめてみた。
このシーズンはジンチェンコにとってはとてもつらいシーズンだったと思う。母国のことが気がかりできっと正常な気持ちでサッカーには向き合えなかっただろう。
プレミアリーグでは、カンセロとウォーカーが基本のSBのセットだった。
ジンチェンコは要所要所で試合に出場し、しっかりと結果を残している。
チャンピオンズリーグでは9試合のうち8試合に出場。昨シーズンもそうだったが、チャンピオンズリーグではほぼ全試合に出場している。
20-21シーズンもそうだが、シーズンが進むにつれて、出場機会を増やす選手で、21-22シーズンもじわじわと試合に出場した。
スタッツ
20-21シーズンと同様にスタッツをまとめている。
特徴としては、20-21シーズンと同様だが、これまでと違うのはアシストの数が増えていることだ。リーグ4アシストはジンチェンコのプレミアリーグでの自己ベストだ。
昨シーズンよりも1試合当たりの総パス数におけるロングボールの割合が減ったのも特徴かもしれない。
20-21シーズン 4.8%
21-22シーズン 4.4%
次の項でも言っているが、このシーズンはよりロドリのサポートとしての役割が多かった。ロドリをフリーにさせて、マークをずらす立ち位置を意識しているようだった。
ちなみに、同じSBのウォーカーとカンセロはロングボールをどれだけ蹴っているか調べてみたところ、
ウォーカー 126本
カンセロ 236本
らしい。
ジンチェンコの全コンペティションの数字を合わせても(80本)ウォーカーには届かず、2年分の全コンペティションの数字を合わせても(183本)カンセロには届かなかったのだから、よほどロングボールを使用していないことがわかってもらえただろう。
パス成功率も圧巻の91%である。
これは、ラポルト、ルベン・ディアス、ロドリ、ストーンズ、ギュンドアンに次いだチーム6位の数字だ。
より自分の長所に磨きをかけたというのが21-22シーズンのスタッツから見られるところだ。
プレースタイル
ほぼ20-21シーズンと変わらない。
一貫したジンチェンコへの要求がわかると思う。
昨シーズンよりもハーフラインをまたぐときはライン際にいることぐらいの違いしかない。
上でも書いているが、昨シーズンよりもロドリのサポートを意識していた。
”マンシティのビルドアップはロドリを経由する”ことが対策され始めたため、SBをよりロドリに近づけたことで、ロドリのプレーが安定したのがこのシーズンだ。
特にジンチェンコはロドリに極力近づくことで、相手のサイドのプレーヤーの判断を惑わせ、ロドリへの負荷を軽減した。
ベストゲームにもあげているCLグループリーグ第1節のライプツィヒ戦ではここまで入ってきている。エンクンクもさすがにここまではついてこれない。
このシーンではそのままボールを前進させたが、この状況で後ろの選手も寄って切れくれれば、受けてすぐにリターンをすることもあった。
今までの偽SBとしてのジンチェンコより幾分自己犠牲が強かったと思う。ボールを受けなくてもいいという割り切りを感じた。
サイドからディフェンスと中盤の間に差し込むパスよりも今シーズンはこのプレーが光った。
また、シーズン終盤にはドリブルで仕掛ける姿も幾度か見かけた。
相手陣内タッチライン際の深い位置でボールを持ったジンチェンコは何かしらのアクションを見せてDFを動かすプレーがあった。これまでは正対し、DFと対峙したところから後方へ下げていた。
これも21-22シーズンのプレースタイルであり、22-23シーズンへの布石だったと思われる。
もうマンシティでのプレーは見られないのだが。
ジンチェンコ's ベストゲーム 3選
ありきたりではあるけれどベストゲームはこの3試合を選びたい。
1.チャンピオンズリーグ第1節 vs ライプツィヒ
1試合目はチャンピオンズリーグのライプツィヒ戦。
チャンピオンズリーグのグループリーグということで、わりと早い時期での試合。
ここでのポイントは、何度も何度も言っているロドリのサポートに徹するSBの位置取り。
ジンチェンコは、ロドリの横で巧妙にライプツィヒ守備陣に迷いを与えていた。
このシーズンは、ジンチェンコの動きに深みが出るだろうと感じさせた試合だった。
2.チャンピオンズリーグ準決勝 vs レアルマドリード
ここでも負けた試合を選んでしまった。
それにジンチェンコがフル出場しているわけでもないのに。
72分にウォーカーと代わってピッチに入ったジンチェンコはレアルマドリード相手にもその能力を発揮した。
そのインサイドキックは白い巨人の足を止め、その位置取りは白い巨人を惑わせた。
投入直後のマンシティの追加点は、左ワイドから中央のギュンドアンへ刺すいつものジンチェンコのプレーであった。
そのいつものプレーはもうマンシティでは見られない。
3.プレミアリーグ最終節 vs アストンビラ
何よりも21-22シーズンの優勝を手繰り寄せたのは間違いなくジンチェンコであったと私は思う。
他の人が、ミドルを決めたロドリと言おうが、こぼれへの反応が抜群だったデブライネと言おうが、得点を決めたギュンドアンと言おうが、僕だけはジンチェンコと言いたい。
それに来シーズンに期待を持たせる縦への意識、ゴールへの意識。
最終節で来シーズンのジンチェンコの活躍が目に浮かんだのだ。
浮かんだイメージはもう二度と実現しない。
マンチェスターシティへの貢献度
獲得タイトル
マンシティに戻ってきた17-18シーズンからタイトルを獲得し続けているジンチェンコ。
ここでは獲得タイトルを紹介しておく。
プレミアリーグ4回 (17-18、18-19、20-21、21-22)
FAカップ1回 (18-19)
EFLカップ4回 (17-18、18-19、19-20、20-21)
コミュニティシールド2回 (18、19)
本格的に主力として活躍し始めたのはレンタルバックから二年後の19-20シーズンからではあるものの、毎年のようにタイトルを獲得。全部で11個。
決勝で涙をのんだチャンピオンズリーグはやはり悔やまれる。
このチャンピオンズリーグでの悔しさはアーセナルで晴らせるのだろうか。
移籍金
そしてもう一つの大きな貢献が、移籍金だ。
マンシティに入る金額の多さである。
22-23シーズンに向けて、これまでシティの主力としてプレーしたジェズス、スターリングがそれぞれアーセナル、チェルシーへと移籍した。
移籍金はたしかに二人ともジンチェンコよりも大きい金額である。しかし、ジンチェンコはユースチームから這い上がった選手だ。シティの目に留まり、若くしてシティでのプレーを夢見た若者はそれはそれは大きな貢献をしたのだ。
ジェズス 32M€(in) 52M€(out) ⇒+20M€
スターリング 63.7M€(in) 56.2M€(out) ⇒ー7.5M€
ジンチェンコ 2M€(in) 35M€(out) ⇒+32M€
お金で喜べればどれだけ良かったか。
ありがとうジンチェンコ。
私は、ジンチェンコのこれからの成功を祈っている。仮にマンシティにいるときよりも大きな幸せを享受し、たくさんの成功を得たとしても。
それがジンチェンコの喜びであるのなら、何も問題はない。
ただ、それがマンシティであってほしかったと少しのわがままを言いたくなるぐらいのものだ。
2022年7月30日
選手交代から見るCLレビュー マンチェスターシティvsレアルマドリード
こんにちは。
tadashiです。
チャンピオンズリーグ準決勝マンチェスターシティvsレアルマドリードの衝撃的な試合を選手交代という観点でレビューをするという試みです。
好きな両チームが近年CLで戦うことが増えた。複雑な気持ち。
1stレグ マンチェスターシティホーム
結果は4対3でマンチェスターシティが勝利した。
前半10分でマンチェスターシティが2点を先制する展開。
ここまでうまくいくとは思っていなかったけど、ペップはおそらく早めに先制してボールを保持したまま勝利しようと考えていたはずで、前半15分だけ見てもシティが60%の支配率を記録している。(試合を通して変わらず)
勝てたけど、という気持ちではあったと思う。
一方のアンチェロッティはさすがにこの展開は予想していなかった。ボールを持たれることは容易に想像できるので、あまり激しくプレスに行かず、というよりも行けずに、ボールが持てたときに素早くシュートまで持っていくというリーガでの戦い方と特に変えなかった。カゼミーロがいないので守備はどうするのかと思ったが、カゼミーロがいないときのいつもの戦い方で、工夫はしなかった。
36分 ストーンズ⇒フェルナンジーニョ
交代の理由は間違いなく、怪我もしくはコンディション不良。
開始10分で2点先制したものの、追加点を入れられず、レアルマドリードに1点返されてすぐの交代。
ペップとしてはここからどう勝ち切るか、追加点をあげるかというところにフォーカスしたかったはずだが、ここで交代枠を一枚使う、ましてやSBに使うことになるとは。
そもそもストーンズをSBで起用せざるを得なかった状況がきつい。
ウォーカーが怪我、カンセロが累積により出場不可。しかも、ヴィニシウスを相手にするという肉体的負荷の高い役割。
ウォーカーがいないことが何よりも悔やまれた瞬間だったに違いない。
試合の展開はそれ以降もマンチェスターシティ優勢であったことには変わらないが、ここ数シーズン大事な場面でDFのプレイヤーが怪我していて、そのままCLで敗退しているという嫌な記憶をどうしても思い浮かべてしまう。
さて、右SB不在の中控え選手からフェルナンジーニョをSBとした意図を考えてみたい。
まず、控えメンバーでDF登録はアカデミーのライリー、エンベテ、そしてトップチームのアケ。このCL決勝をかけた試合でアカデミーの選手を起用するのはあまりにも酷。フォーデンをあれだけ大事に起用したペップがそれをするとは思えない。
では、アケで良かったのではないか?と思った。
アケを左CBにして、ディアスを右SB。結果的には後ろ3枚でビルドアップをすればフェルナンジーニョ起用よりもシンプル。
考えられる理由としては、右利きを置きたかったことと、ルベンディアスを真ん中にしておきたかったのが理由だと思う。
結果論ではあるが、フェルナンジーニョだったからこそフォーデンのゴールをアシストできたのだと思った。
後半開始 アラバ⇒ナチョ
マンチェスターシティが選手の怪我によって交代枠を一枚使った一方でレアル・マドリーにも同様のことが起きてしまう。
直近のリーグ戦で怪我をしたアラバを変えざるを得なくなった。この試合スタメンで出た時点でなにかしら無理をしての出場だとは思っていたが、前半でアラバは退いた。
前半のうちにベンゼマのゴールで1点差としたので、状況はそこまで悪くない。ボールは支配されながらもフィニッシュにかかるスタッツは大きく差がなかったので、マドリーならば十分試合を返せる。
アラバを変えるならナチョしかいないので、交代の人選に対する意図はない。
今シーズンのナチョは怪我人の多かったDFラインの穴を埋める形でCB、SBと固定されない時期が多かったが、シーズ通してみるとやはりCBとしてのプレーのほうが安定している。
結果として、2ndレグも含めてナチョは抜群だった。
70分 ロドリゴ⇒カマヴィンガ
この交代の前に試合はまた大きく動いた。
一つが53分のマンチェスターシティ追加点。
マンチェスターシティの前線からのハイプレスはCBのパスコースを消し、クロースのパスコースを消し、意図的に左サイドへの誘導を感じた。
当然、バルベルデやモドリッチへのパスコースもなく、受けられても低い位置となる。
この追加点では、メンディーが選んだ預け先(ヴィニシウス)をフェルナンジーニョが読み切り、そのままサイドを駆け上がったことで生まれた。
ヴィニシウスは相手を背負って、自分に集めてからフリーの選手にパスを出そうと思っていたようだが、少しだけ背後への意識が足りなかった。
このシーンは、フェルナンジーニョが出場したプラスの作用が大きく、普段アンカーで相手の意図を読み、攻撃の芽を潰していたことが功を奏した。ストーンズだったとしたらここはアタックしていなかったと思う。
そして2つ目がマンチェスターシティ追加点の2分後のレアル・マドリード追加点。
なんとも忙しい試合である。
この数行前に、マンチェスターシティの追加点はフェルナンジーニョをSB起用したことがプラスとなったと書いているが、ここでは逆にマイナスとなった。
同じようにマドリーのビルドアップをマドリーの左サイドに誘導し、同じようにメンディーのパスコースをヴィニシウスのみに仕向けたまでは良かったが、フェルナンジーニョの頭の中の数分前の成功体験が、その数分前の状況よりも悪かったとしても足は止まらなかった。
前置きが長くなったが、カマヴィンガの投入は再度一点差に縮めたところから15分経過してもスコアも試合展開もあまり変えられていなかったことによるアンチェロッティの策だ。
この試合はシティの左SBジンチェンコがビルドアップに効果的だったことに加えて、IHとフォーデンが絡む左サイドに相当ロドリゴは苦労していた。さらにはヴィニシウスが得点をあげたとはいえここまで普段のようなプレーもできておらず、展開としては右サイドからのスタートが多かった。
つまり疲労も見られたということ。
カマヴィンガを投入した意図としては、バルベルデを右WGに配置し、攻守の切り替えを早めること。今のマドリーにおいてバルベルデのインテンシティはチーム内トップクラス。そんな選手を調子の良いエリアにぶつけるのは当然である。
あとはクロースとのダブルボランチにしたとの見方をする人もいたが、ここに関してはそれも正解かなと感じるところである。
カマヴィンガはマドリーの選手には珍しくボールをあまり持たないで散らしながらリズムを作る中盤なので、負けていてボールを早く配球したいこの展開には非常に重要な選手。また、あまり印象にはないかもしれないが、ボール奪取能力が高い。
逆転したいマドリーにおいてはロドリゴ→カマヴィンガは、最善の一手だった。
79分 モドリッチ⇒セバージョス
ここでアンチェロッティはマドリーを支えるベテランを下げ、じわじわと出番を増やしているセバージョスを投入。
“ここで”というのは、丁寧に言葉にすると
“カマヴィンガを投入して、流れを引き寄せようたした中で一瞬の気の緩みから決定的な4失点目を食らったあとで”
ということだ。
残り15分で2点差となった時点で取れる選択肢は5点目を取られずに点差を詰めること以外にない。
2点差となってもプレスをさぼらず、非常に集中していたマンチェスターシティを相手にモドリッチを残しても決定的な仕事ができるスペースもない(マンチェスターシティはハイプレスを仕掛けながらもブロックを作り受けることもできるため、スペースが限られる)と判断したのだと思う。
セバージョスの推進力でなんとか、といったところか。
83分 ジェズス⇒スターリング
試合開始から献身的に攻守に走っていたジェズスをスターリングに交代。
この直前にマドリーが追加点を取っている。ラポルトのなんとも仕方のないハンドでPKを献上してしまった。
平然と決めたベンゼマには本当に感服するが、勝っているのはマンチェスターシティ。アウェイゴールがないのだから、得失点差よりも勝つことが重要。
スターリングもジェズスと同じように献身的なプレーができる。
あわよくばもう一点取れるかもしれない、と思ったかもしれない。
12分間のプレーでタッチ数4回、シュート1本、オフサイド1回。ゴールに迫る姿勢は見せていた。
マンチェスターシティはこのマドリーとの1stレグは二人しか交代枠を使っていない。
たしかにサブにいる選手の大半がセカンドチームの選手ではあるが、ギュンドアンやグリーリッシュも控えていた。
フォーデン、マフレズ、ベルナルドシルバ、デ・ブライネみな素晴らしいパフォーマンスだった。変える必要がなかったとも言える。
リーグでの戦いが非常に混戦となっているため、ターンオーバーのような考えもあったはず。
88分 ヴィニシウス⇒アセンシオ
この試合の最後の交代は、得点をあげたヴィニシウス。アセンシオが投入された。
残り数分で何かを起こすならばアセンシオの左ということだろう。
控えにはマルセロ、イスコ、ベイルがいた。選択肢はアセンシオだろう。
ただ、結果として何も起こらなかった。
試合はだれも想像もしていない打ち合いとなった。
ここで覚えておきたいのはマンチェスターシティはグリーリッシュが出場していないこと。(結果論ではあるが)
一方で、レアルマドリードは、15人の選手が試合に出場し、マンチェスターシティと対峙した。
お互い2ndレグに向けて、戦術を練っていたはずだが、まず選手個人に向けて考えてみるとどうなるだろうか。
大きな対戦相手の圧をピッチで直接感じたかどうかというのは戦術以上に重要な気はする。
それでは2ndレグを見てみよう。
2ndレグ レアルマドリードホーム
レアルマドリード大逆転での決勝進出。
3-1でレアルマドリード。
1点差でベルナベウでの試合はマドリーからすると十分勝利の許容範囲であることはマドリディスタであれば知っている。
1stレグ怪我で交代したアラバは出場できず、その穴を埋めたのはナチョ。それ以外は考えられるベストメンバーでレアルマドリードはマンチェスターシティと戦うことができた。
バルベルデを右WGに配置し、右サイドの強度を1stレグ同様に高めようとしたのは一つある。もしかしたらロドリゴをあとから出場させることも考えていたのかもしれない。
マンチェスターシティは、ウォーカーが間に合った。間に合ったというより“ウォーカーを右SBでなんとか出場させることができた”という表現の方が正しい。なぜならウォーカーは、全体練習には復帰しないままCLベスト4のスタメンに名を連ねたからだ。ただ、なんとなくウォーカーなら大丈夫そうだなと思わせてしまうのは不思議。デブライネだったら絶対に途中で終わるって思える。
それ以外はこちらもベストメンバー。
ペップとしては1stレグで点差を広げられなかったのを2ndレグで取り戻そうとする意識はあったと思う。点を取らないと勝てないマドリーのプレスをかわしてボールを運ぶシティの姿はなんとなく想像できた。
前半はかなりがっちりお互いがお互いを睨みつけながら進んでいった。
シュート数は6本で同じだが、枠内シュート0のマドリーに対して、枠内シュート4のシティ。シュートはすべてクルトワがセーブ。
マドリーはエリア内でのシュートが4本もあったが枠には一本も飛ばなかったのは後半への不安が増す。
シティは5本のシュートがエリア外からだったのは、侵入できなかったのかしなかったのか。前線で人数をかけてクルトワに拾われて高速カウンターを受けるのを恐れていたようにも思える。
とにかくヴィニシウスが怖い。ウォーカーがどこまでもつかわからない。
前半ウォーカーで耐え忍んで差を広げる算段だったように今考えると思える。
68分 クロース⇒ロドリゴ
後半開始キックオフでの決定機が外れ、その後もゴールが奪えないマドリー。
ここでアンチェロッティは決断する。
この決断の早さが名将と言われる理由なのかもしれない。
交代した選手はクロース。なんとしても得点がほしい。ただ、シティも点を取りに来ている。おそらくゲームはどんどんオープンになっていくと予想された。
そこで静的なクロースよりも動的なバルベルデを中盤に入れ、CLで調子が良いロドリゴを投入し、機動力を高めた。
72分 デブライネ⇒ギュンドアン、ウォーカー⇒ジンチェンコ
その数分後、マンチェスターシティにアクシデント。
数週間ぶりのフルマッチで相手はヴィニシウス。さすがのウォーカーにも限界が来た。
それと同時にペップはデブライネを下げることにした。
マンチェスターシティも追加点が奪えない中で試合は予想通りオープンな展開となった。特に、攻め込めるときがあるとわかればスピードアップを図るデブライネは、カウンターでも威力を発揮するがプレー選択のミスでボールロストする可能性がチームとして大いにあった。
ゲーム展開を落ち着かせることともう少しマドリー相手に後ろで落ち着き、前線とバックラインを広げたい狙いを考えた。
ウォーカーはジンチェンコ、デブライネはギュンドアンとの交代だ。
SBに関しては選択の余地はない。
アケがいたけれどCBの控えに残しておきたい。
ギュンドアンの選択も至極当然。
上のような狙いがあったと推測すると時間を作れるギュンドアンとなる。
こう見ると、マンチェスターシティには展開を変える控え選手がいない。
ちなみに投入直後にマンチェスターシティは待望の追加点、この試合での先制点をあげた。
ジンチェンコが左ワイド後方でボールを持ち、左足で外側から中央ギュンドアンへ。ギュンドアンは体を後ろ向きで左足でトラップ。食いついたマドリー中盤の背後にフリーで待つベルナルド・シルバにパスをした。
采配が一分後に的中したのはペップが初めてなのではないか。オープンな展開を急激に止め、オープンな展開を望むマドリーの裏を取る。
ここで2試合合計5-3となり残り15分。
マンチェスターシティが圧倒的有利となった。
75分 モドリッチ⇒アセンシオ、カゼミーロ⇒カマヴィンガ
おそらくこの交代はどこかで考えていたと思う。
モドリッチの交代のメカニズムは、1stレグに近い。モドリッチが決定機なプレーをするスペースは消されていく。アセンシオとの交代は当然アセンシオの左足での一発に期待するものだ。
なにか起こせる可能性をアンチェロッティはピッチにちりばめていく。
2点差となったシティがもっと前から来るとは思えない。(前線からのプレスはサボらないし、プレスバックもサボらないが)
CBの前で相手の攻撃の目を摘み取るカゼミーロはこの展開では、絶対な存在ではないということである。
カマヴィンガを投入したことで、マドリーは加速せざるを得ない。とにかく得点のために手を尽くす必要がある。
ここで個人的に衝撃だったのが、CL3連覇を果たしたマドリー伝説の中盤の3枚がピッチからいなくなったことだ。
アンチェロッティの思い切りの良さ。
何度でもいう。
この決断の速さが名将と呼ばれる理由だ。
だが、しかし2点差は変わらないマドリーはなんとかして点を取りに行くことになる。
中盤の構成はバルベルデとカマヴィンガの前にアセンシオというような形となっていたと思われるが、もはやシステムなどどうでも良かったと思う。場合によってはカマヴィンガを残して、バルベルデも前にいる時間もあったので、どんどん押し込んで得点の可能性を高めようとする意志を感じた。
それにしてもフランスで成功をおさめ、マドリーに引き抜かれたカマヴィンガは19歳にしてすでにマドリーに欠かせないオプションとなっている。世界のレベルの高さを思い知らされた。
1stレグでも途中出場、そしてこの2ndレグでも途中出場。
途中出場するほど難しいことはないのに、大事な大事な試合でしっかりと試合に順応するポテンシャル。マドリーは若手の買い方もうまくなってしまったのか。
78分 ジェズス⇒グリーリッシュ
続いてマンチェスターシティ。
試合開始からボールを追いかけ、スペースに走り、体を張っていたジェズスをグリーリッシュに交代した。
交代した理由の一つはおそらく疲労。ロスタイム含めて残り25分ある中でフレッシュな選手を使いたい。
また、グリーリッシュをチョイスした理由は、ボールキープと単独突破。どうしても守備に比重を置く残り時間を考えるとグリーリッシュのように不用意にボールをロストしないかつ、フォローがいなくても縦に侵入できる選手を置いておきたかった。
投入後、グリーリッシュは二本の決定機を単独で生み出している。どちらもマドリー守備陣のほぼ奇跡に近い守備で防がれたが、グリーリッシュの存在はマドリーの右サイドに少しだけ待ったをかけたように思えた。
グリーリッシュ投入というペップの采配はベストだった。ここでも戦況を読み、的確な人材を配置することで、相手よりも優位にたった。
ただ、試合を見たものもおそらくグリーリッシュもこの二本の決定機が止められたことに驚きを隠せなかった。
さすがはレアルマドリードというところで、グリーリッシュはそのレアルマドリードを初めて肌で感じた。
85分 マフレズ⇒フェルナンジーニョ
試合は終盤戦。
攻めあぐねるマドリーと決定機が決められず引き離せないマンチェスターシティとの戦いは、残り5分となってペップがカードを切る。
1stレグからチャンス、決定機を演出し、この試合の先制点をあげたマフレズを下げた。
投入されたのはフェルナンジーニョ。
ピッチへのメッセージは「試合を締めろ」ということだろう。
1stレグは思わぬ形で途中出場し、勝利に貢献したフェルナンジーニョは、今シーズンを最後にマンチェスターシティを退団することが確定している。
ここで試合をクローズし決勝へ。
マンチェスターシティの全選手が残りの5分を共有の意識で戦った。
99分 ロドリ⇒スターリング
90分を超えてなお続く試合。
残り5分でフェルナンジーニョが投入されたときに「99分に選手交代」という言葉を使うとは思ってもなかった。
フェルナンジーニョが投入され、ロドリが交代するまでのこの14分間で、マンチェスターシティは3失点した。つまり逆転された。
この14分間の展開はもはや多くの人間が目の当たりにした事実であるため、詳細は割愛するが、レアルマドリードは交代して入ったカマヴィンガとロドリゴが見事に活躍したというところ、マンチェスターシティは交代して入ったグリーリッシュがマドリー相手には緩い守備をしたというところに両チームの差が出ていたように感じた。
マドリーを初めて肌で感じたグリーリッシュは、プレミアでは守備をさぼるような選手ではない。それでもプレミアの中位以下であればあの寄せでもなんとかなっていたのだと思う。
ロドリが変わったのは、もう交代”させる”選手がロドリしかいなかったからで、スターリングが出てきたのは、スターリング”しか”いなかったからだ。
トップチームの選手は、この時点でスターリングとアケしか残されていなかったペップの切るカードは、スターリングしかない。
104分 ベンゼマ⇒セバージョス
PKを沈めたベンゼマは、セバージョスと栄光の交代。輝かしいマドリーの歴史をここでまた塗り替える素晴らしい活躍だった。
おそらくそのままの位置には入らず、残りの時間縦横無尽に走り回る。ヒートマップをあとで確認したところピッチ全体に薄くちりばめられていた。
セバージョスもしっかりと役割をこなしたことになる。
この間マンチェスターシティは当然攻撃を繰り返すが、監督が切れるカードは残されていない。
時間だけが過ぎていくという言葉がぴったりな展開だった。
115分 ミリトン⇒バジェホ、ヴィニシウス⇒ルーカスバスケス
そして2試合合計210分の戦いのラストの交代はミリトンとヴィニシウスだ。
ミリトンは負傷による交代。アラバは怪我気味であったためバジェホが投入された。
全マドリディスタが不安に思っていたと思う。
そしてヴィニシウスはルーカスバスケスと交代となった。
ヴィニシウスの疲労を考慮しての交代であると同時に5バックへのシステム変更を行ったアンチェロッティ。抜け目はない。
潮流を作った男と時代を作った男
いかがだっただろうか。
210分の激闘を制したレアルマドリードは勝者に値するとんでもないチームであったことがわかった。
涙をのんだマンチェスターシティはこの絶好調のレアルマドリードに対して戦術的に上回りほとんどの時間でレアルマドリードを圧倒した。
現代の潮流は、ペップのかかげるポゼッションサッカー+αであり、強豪チーム以外でもその流れはある。いつの間にかCBとGKはパスやドリブルの基本技術を求められるようになってきた。今ではSBすらも当たり前のようにゲームメイクをする時代。
一方で、その時代の流れから別の道を歩んでいるレアルマドリード。個の中に戦術を取り入れるスタイルは一発勝負という戦術を超えた試合で真価を発揮する。
どちらもおそろしくレベルが高く、生きているうちにこのような試合に巡り合えたことを感謝しなければならない。
最後に、交代選手を改めて確認していきたい。(投入された選手)
■マンチェスターシティ
2ndレグ ジンチェンコ、スターリング、ギュンドアン、フェルナンジーニョ、グリーリッシュ
1stレグ ナチョ、セバージョス、カマヴィンガ、アセンシオ
2ndレグ バジェホ、アセンシオ、カマヴィンガ、ロドリゴ、セバージョス、ルーカスバスケス
共通しているのはどちらも少数精鋭のスカッドでシーズンを戦っていること。
異なるのは交代で出てくる選手の年齢層。
マンチェスターシティには、グリーリッシュを除いてペップが育てた高性能な選手たちで構成されている。おそらくだれが出場してもある程度の形が作れる。
だから強いし、だからこそ脆い。
劣勢のときにゴール前に飛び込めるのがジェズスとギュンドアンだけなのも悩ましい。
この2試合交代で出てきた選手はグリーリッシュを除いてここ数シーズンマンシティを支えてきた選手たち。途中交代でもしっかりと試合に入ることはできるが、試合を変える展開をこのレベルのチーム相手に行うのは難しいということがわかった。
(※つい先日行われたプレミアリーグ最終節では0-2を5分間で逆転したが、相手はアストン・ビラであった)
さらに言えば、2失点ともグリーリッシュの目の前で出されたパスからなのもさらに悩ましい。マンチェスターシティはこういう展開にほとんどの期間で遭遇しない。マンチェスターシティで、レベルの高い戦術を習得しつつあるグリーリッシュは一歩だけ相手に近寄る場面をこの1年間で経験していない。
グリーリッシュはまったく悪くない。
この展開になってしまう前に講じる策があった。フェルナンジーニョを投入して、ブロックを固める以外の策が。
レアルマドリードは、交代で出てくる選手たちが若い。DFラインを除けばさらに若い。
ロドリゴ、アセンシオ、カマヴィンガと入っていくと機動力がどんどん高まり、何人もゴール前にも飛び込んでいくシーンが見られた。パサーとフィニッシャーのバランスが良かった。
1stレグでも控えメンバーを投入し、2ndレグに向けてマンチェスターシティを経験させたのはアンチェロッティの考えだと思う。
3連覇を達成したメンバーに全幅の信頼を寄せつつ、要所で新しいメンバーを投入する。
おれが信頼するこの選手に変えて君を投入する意味わかるな?と言わんばかりの痛烈なメッセージ。モチベーションは爆上がりだ。
そんな交代策をシーズン通して行ってきた(序盤は一度、ベースを変えようとしたが)アンチェロッティは、常に選手交代がピッチの熱量を高めるための材料だと思わせる。
と、ここまで書いて、両指揮官の交代の目的にいたる過程がまったく異なることに気づいたので、最後にそれを記して終わりにしたい。
マンチェスターシティを率いるペップグアルディオラは、相手チームを崩すこと、壊すことを目的とした交代をしている。
例えばこの試合では2ndレグでのデブライネ→ギュンドアンの交代。マドリーが得点を取るために前に出てくることを想定しての交代。
レアルマドリードを率いるアンチェロッティは、自チームの勢いを高めること、モチベーションをあげることを目的として交代を行っている。
ベースとなる11人をほぼ固定化するのは、11人への絶大な信頼があり、その信頼する11人にかわって入る選手のことも同様に信頼していることを、選手交代で伝える。
どちらが良いかという議論はあまり意味がない。どちらも試合に勝利するために、トーナメントを突破するために、選手交代を行うのだから。
さて、残すところ今シーズンの欧州サッカーは、レアルマドリードとリバプールが争うCLのファイナルのみとなった。
90分間のどのタイミングに、だれを投入し、どこを変えるか。刻一刻と変わる状況は待ってはくれない。それならば、自分の信念があったほうがいい。
白を染める勝利 CLラウンド16 vsパリ・サンジェルマン
こんにちは。
tadashiです。
ベルナベウが揺れた。
ベルナベウの圧倒的な力に心を乱したのは、追いかける白い巨人ではなく、受けて立つフランスの都パリ。
150分を耐えたエッフェル塔は気づけば崩壊していた。
という本当に試合を視聴して声をあげた試合のメモを残したい。
前半戦と称する90分
2月に行われたラウンド16の第1戦は、ヨーロッパの勢力図が入れ替わったとだれもが思った。
パリ
シュート数21本
枠内シュート8本
ボール支配率57%
パス677本 成功率は91%
シュート数3本
枠内シュート0本
ボール支配率43%
パス510本 成功率は85%
マドリーは枠内シュート0本で90分を終えた。
マドリーが枠内シュート0本で試合を終えたのはいつぶりだったかまったく記憶にない。それほどショッキングなデータだった。
高い位置からプレスをかけたパリは、左を19歳のヌーノメンデスに一任し、右はハキミを高い位置にあげ、守備はダニーロペレイラがカバーする形とした。
信じられないぐらいにマドリーが何もできなかった。
幾度となく奇跡を起こしてきたレアルマドリードは、2ndレグをどう戦うのかだろうか。
勝つための1か月
0-1で破れた1stレグ。
次の2ndレグではアンカーのカゼミーロ、左SBのメンディーがサスペンションで出場できないことが決まっていた。
パリ戦に向けてメンバーを試すことはしないのかと問われたアンチェロッティ監督は「これまでも彼らがいないゲームはあったし、十分にやれていた」と答えていた。
たしかに、その間のリーグ戦3試合で意図的にメンバーを変えることもなく、アラベス、ラージョ、ラ・レアルと戦い3連勝を挙げた。
ラ・レアル戦では、怪我気味だったクロースはベンチ外となったが、カマヴィンガをスタメンから投入することができたのは良い材料だったと今なら言える。
メンバーはさほど変えなかったマドリーは、戦い方を変えた。
今シーズンブロックを作って固く守り、相手を引き寄せたところでベンゼマのボールキープとヴィニシウスのスピードでカウンターを発動させ、それが安定した勝利に繋がっていた。
しかし、パリ相手に2ndレグで勝利し、次のラウンドに進むためにはカウンターではない戦い方が必要だとアンチェロッティ監督は考えた。
それをチームに落とし込んだのがこの1ヶ月間だった。
モドリッチとベンゼマを筆頭に相手のビルドアップを前から前から潰しに行くマドリーを見たのはジダン政権以来だったが、思いの外うまくいっていた。
この戦術を最前線でこなしていたのが36歳のモドリッチと34歳のベンゼマであったのがこのレアル・マドリードというチームを象徴していると感じた。
年齢や在籍年数で、王様になるような選手はいない。マドリーがマドリーであるためにはそこにいる選手たちがマドリーに忠誠を誓わなければならないからだ。
パリ戦に向けて、相手を上回って勝つための策をわかりやすいほど明確に示し、1ヶ月間を費やして戦術の手応えを確かめていたが、そこには常にカゼミーロがDFラインの前にいた。
パリ戦ではカゼミーロ不在の問題をどのように解決するかが一つのポイントではあった。
助かったマドリー
助かったマドリー、と表現したのは結果論だったかもしれないが、本当にまさに結果としてはマドリーはパリの戦術に助けられた。
マドリーは、クロースをアンカーに、モドリッチとバルベルデをインテリオールに配置した。
リーグ戦ではカゼミーロの代役として配置されることの多いカマヴィンガではなく、クロースがアンカーに配置されたのは、ボールをなるべくパスでスムーズに運びたかったからだと推察される。
パリのビルドアップ時には、バルベルデとベンゼマを並べたハイプレス、最終ラインを高く保ち、相手陣内でのプレーを長く、ゴールに迫ろうという意思が見えた。
そのための1か月だったのだから当然だ。
左SBはワンクラブマンのナチョ。
メンディーの代わりにというにはとてもおとなしく、これは代わりではなく、今日のマドリーにはナチョが必要だったと今、ここで言っておきたい。
最終ラインを高く保つことで、圧倒的なスピードを持つエンバペが自由に飛び出せることはもはや承知の上。
そんなことはわかったうえでこの戦術を取っている。
一方のパリは1stレグで勝利しているアドバンテージからか、そこまで前からプレスをかけに来なかった。
マドリーの攻撃を受け、少ない手数でオープンスペースにエンバペを走らせる。非常に効果的で効率的で、マドリーの狙いを考えればこちらもまた当然の判断だった。
守備時は、4-3のブロックを作り、素早いスライドでマドリーをサイドに追いやるという形。何度か前線の3枚が戻るときもあったが、ほとんどはこの2ラインと前線3枚の間には連携は取られなかった。
カウンターを狙いにいくには、素晴らしい戦術であるが、マドリーにとっても狙っていた形であったことは後半を見ればわかる。
39分に見事にその高い最終ラインの裏を取り、先制点をあげたパリだったが、枠内シュートのそのほかのどれかがもう一点だけでも入っていればまた試合は違う形で後半に進んでいただろう。
前半は、支配率60%、枠内シュート4本とマドリーを上回ったパリだった。
カルロの交代策
前半を0-1で折り返した57分にマドリーは動いた。
クロースを替えてカマヴィンガ、アセンシオに替えてロドリゴを投入した。
クロースは怪我明けで、アセンシオは前半のボールタッチの感覚が不安定だったので、交代選手としては妥当ではあったと思う。
57分という絶妙の時間、その後の同点ゴールのタイミングからして、ペースを握ったら絶対に逃さないマドリーらしさが全開だった。
この交代によって何かが変わったわけではない。
むしろたいして変わらなかったことがこの後のドラマに繋がったのかもしれない。
前半のクロースは、後方でボールを受け、ロングボールではなく、短いパスでパリの隙をつくようなプレーをしていた。ボールを持つことで、リズムが作れるが、7枚が下がりカウンターを狙うパリにとっては守りやすかっただろう。
代わったカマヴィンガは球離れが速く、ボールを持っている時間よりも持っていない時間の方が多く、サッカーにおいてボールを持っていない選手の動きは気になるものなので、パリからするとカマヴィンガの次のアクションをいちいち見ておかなければならない。これは煩わしかっただろう。
現にクロースのタッチ数が56だったのに対して、カマヴィンガのタッチ数は17だった。
ボールタッチに不安のあったアセンシオは、ロドリゴに代わった。
右利きのロドリゴに代わったことで、縦への仕掛けが増えただけでなく、守備もアセンシオのときより良くなった。
一枚イエローカードをもらっていたカルバハルに代わって入ったルーカスバスケスは、今シーズン怪我を繰り返しているカルバハルよりもコンディションはよく、この勢いでハードにプレスをかけていくという選択を続けるにあたってバスケスの豊富な運動量と何にでも食らいつくメンタルは、同じく途中出場のロドリゴとあわせてこの時間帯のパリにじわじわとダメージを与えていた。
交代枠はこの3枚であったが、もう一つ手を加えたのがナチョとアラバのポジションを入れ替えたこと。
ベンゼマの1点目が入った後、アラバが左のSBに入り、かなり前線に顔を出すような時間帯があった。大外のスペースはヴィニシウスに任せ、ハーフスペースが中央にかけて高い位置をキープするアラバと、ミリトンの横にたたずむナチョの姿がけっこう個人的には印象的だった。
直接的にこの入れ替えが逆転に影響したかはわからないが、この勢いを無駄にしないために前から圧力をかける必要があったのは間違いなく、その役はナチョよりもアラバの方が適任だったということだろう。
パリの崩落
1stレグから150分間は完全にマドリーを圧倒し、狙い通りの展開で残り30分間を迎えようとしていた。
このままで良いとだれもが思い、ポチェッティーノですらやり方を変えなかった。
マドリーがこれから猛攻を仕掛けようとしていることはだれにだって想像がついたが、それまでの150分間が狙い通りにいきすぎたゆえに、ベターな選択肢が存在しなかった。
そこで起きたのがマドリーの1点目に関わるドンナルンマとベンゼマのアクション。
ドンナルンマに何が起きたのか。
そんなこと誰も知ることはできない。
ボールを受けて右に出そうとしたら、ベンゼマがハードにプレスに来たのでミスをしたというのが全世界に放映されたたった一つの事実である。そんなことはどうでもいい。
ポイントはベンゼマへのプレスに他のマドリーの選手が連動していたことだ。
ベンゼマが一人でプレスに成功していたとしてあのドンナルンマのミスキックを拾う術はあっただろうか。
これが1ヶ月間をかけて選手に意識つけたパリ必勝法だったのだ。
さて、これでもまだ1-2。
状況だけで言えばパリが有利。30分間を守りきればいい。
ただ、ここはスペインマドリードがサンティアゴ・ベルナベウ。
レアル・マドリードという世界が目標とし、羨望するチームがホームの後押しを受けて、すべてを投げ捨てて迫ってくる。
そんな状況を知ってパリが有利だと言えるはずがなかった。
パリはそれでも変えなかった。前がかりになるマドリーの隙をつけると思っていたのかもしれない。
エンバペは攻め残り、ネイマールとメッシは相変わらず中間ポジションをキープする。ボールをマドリーが持ち続ければ中間ポジションにパスは出ない。重く後ろで受け続けるパリは前線3人にこれまでの150分のようなフォローはない。
マドリーが攻撃→奪回を繰り返すことになる。
71分にゲイエが投入されたが、変わったのはカードをもらっていたパレデス。
中盤同士の交代は、一見するとベターのように思えた。しかし、この試合において決してベストではなかった。
なぜならば、マドリーが全員で追加点を取りにきている中で3人を守備から除外していたからだ。
ゲイエはメッシと変えるべきだった。
そして、ネイマールを下げて4-5のブロックを作るべきだった。
この交代がなされたことで、勝利のチャンスが巡ってきたと思った。
この時点ではまだ1点の差で勝っていたパリ。
しかし、この采配は守備陣にはあまりにも酷なものであったと思う。
ビルドアップのミスによる失点のフォローはしない、という監督からのメッセージだった。
72分のヴィニシウスの決定機のシーンもパリの不安を表すものだったとも思えた。
バルベルデがドリブルで2枚をはがしたとき、次のプレスは間に合わず、少し遅れてバルベルデと並走するヴェラッティの姿がハイライトを見るとわかる。
少しずつ少しずつ7人だけで守備をするパリの限界が迫っていた。
76分のベンゼマの2点目。モドリッチのドリブルにパリがプレスをかけられなかった。3人がモドリッチを囲んでいながらだれ一人ボールにアタックできなかった。
72分のバルベルデのドリブルへの対応よりも悪くなっていた。
最後は、直後のキックオフ。
パリは前線3人のだれかにすがるのみ。その気持ちをマドリーは完全に読み切っていた。パリのキックオフの瞬間に中央に集結し、一人目のプレスとなったロドリゴがボールをカット。
そのロドリゴがヴィニシウスにスルーパスを送ったことで、一気に展開をひっくり返した。
パスはずれ、ヴィニシウスの前に体を入れたマルキーニョスだったが、絶対にドンナルンマにはボールを下げられなかった。
超一流のDFが少し前に起こったことを忘れるはずがない。それぐらいの極限の状態だった。
あの場面、グラウンダーでまだつなごうと思っていたのか、クリアのミスだったのかはわからないが、マルキーニョスのプレーはパリを崩落させた。
レアル・マドリードとは
試合を見ているものは思った。
これこそがレアルマドリードだ。
白い巨人は、泥だらけになって勝利をつかんだ。
どんなに素晴らしい選手でも、マドリーの名を背負ったら、すべてを投げ捨てて勝利へ向かってがむしゃらに走る。
その姿を見ることができた最高の試合だった。
こんな試合は生きていて何度もお目にかかることができない。できないはずなのに、レアルマドリードは何度もそれを見せてくれる。だから追うことをやめられない。
最後に、ワンクラブマン ナチョについて。
今日も冷静だった。ダンディだった。
今日の試合はメンディーの代わりではない。ナチョが出るべき試合だった。
生涯をマドリーに捧げ、どんなときのマドリーも知っている。
スーパースターを間近で見続け、これからも奇跡とともに居続けるであろうナチョの姿がとても輝かしかった。
良い試合をしたあとのマドリーは次の試合高確率で悪い試合をする。
あまり期待せずに試合を待ちたい。
それでは!
【書評】ミステリーである意味 〜ψの悲劇 著森博嗣〜
こんにちは。
tadashiです。
初の書評。
今回は、森博嗣著「ψの悲劇」という小説を書いていきます。
※すべてに渡ってネタバレを含みます。
作品について
森博嗣は「すべてがFになる」というミステリー小説で衝撃的なデビューを果たした元国立大学の助教授です。建築の材料関係の研究をされていたということで、小説内にも実際の物理現象や建築的描写など、これまでと違った作風から「理系ミステリィ」と呼ばれていました。
私は森博嗣という作家に高校生で出会い、理系に進もうと決めたので、わりと人生の方向性を決めた大きな要素の一つです。
これまで文庫で出ているものはほぼすべて読んでいて、森博嗣の作品を読み始めてからもう15年以上の月日が流れていることに驚きと喜びを感じてしまう。
さて、私が初めて読んだ作品は「すべてがFになる」でした。
高校2年生だったと記憶しています。それからこの作品がコミカライズされ、アニメ化され、実写ドラマ化までされました。驚きです。
森博嗣の作品にはシリーズがいくつかあり、そのシリーズが時間軸のどこかで交わっていて、かつ現実からSFまで様々な場面を織り交ぜて、読者の脳内を無惨にも混乱させ、ひきつけていく魅力があります。
彼の作品にはS&Mシリーズ、Vシリーズ、四季シリーズ、Gシリーズ、Xシリーズ、百年シリーズ、あとスカイ・クロラシリーズなどのシリーズがあり、作者がこれをどこまで最初から思い描いていたのか怖くなります。
ぜひどこからでもいいので読んでみてほしいです。
あらすじ
「ψの悲劇」は、Gシリーズの後期3分作の2作目となります。(Gシリーズは全12作)
Gシリーズを読んでいる方ならわかると思いますが、前半の9作とは大きく時間軸も登場人物も異なります。
文庫本で読んでいると前作からの間が大きく空いていて、その世界観の違いに戸惑ってしまいます。
今作ではとあるお金持ちのお宅で事件が起きます。
家の主である老博士八田洋久が遺書のような手紙を残して失踪。
失踪から一年後、洋久と親しかった人々が八田家に集まり、実験室に入るとコンピュータの中に「ψの悲劇」という名前の小説とノートに書かれた“真賀田博士への返答”というメモが発見されます。
その夜、八田家に悲劇が…
洋久に仕えていた執事の鈴木の語りで物語は進んでいきます。
鈴木が見たもの、聞いたものしか小説の中では書かれず、まったく関係のなさそうな島田文子についても鈴木の視点で語られるだけでした。
悲劇はもちろん殺人事件。
ミステリーでは定番です。
夜、実験室で八田洋久の主治医であった吉野医師が花瓶で頭を殴られ死亡していたのです。
八田洋久には妻がいて、その妻は吉野医師の元で亡くなってしまっている。
これだけ読むと殺人事件はだれが花瓶を掴んで吉野医師を殴ったかは別として、吉野医師を殺そうと企んだのはだれかというところは簡単にわかりそうなものですね。
島田文子の役目
この物語で重要な登場人物の一人は当然、突然失踪した八田博士です。
しかし、森博嗣読者の視点から見た重要人物はもちろん島田文子となります。
八田家で起きた事件は、いつの間にか捜査も緩やかになり、この小説の中でもどんどんと語りれなくなります。(主題が殺人事件から離れただけで最後までなんとなくこの殺人事件は語られます)
物語の中盤から話の展開は、“島田文子の実験”がメインになります。
この実験は八田洋久が失踪した理由とも重なり、かつ、今後の人類の生存という観点から恐ろしい未来を見せてくる話でした。
まず、鈴木は人間ではない。
小説の中で、鈴木は2年前から八田家に来たが、それ以前のことは覚えていないと語っていた。
しかし、実際は覚えていないのではなく、そもそもがない、存在しない。
2年前に鈴木が作られ、八田博士のそばに置いたのである。
また、島田文子もとうに元々の肉体は失っている。今回、八田家に現れた島田文子は体は別のニュータイプの島田文子なのだ。
”鈴木が警察からマークされている”
”今回の吉野医師殺害の犯人として疑われている”
ということで島田文子が、鈴木を警察から逃がす描写が後半は描かれる。それと同時に鈴木が“何者なのか”ということを思い出させるのが後半のメインテーマ。
もう殺人事件はどこかに消えてしまった。
結論から言うと鈴木は、八田洋久の肉体から切り離して新しい体に取り込んだロボットで、島田文子はその鈴木の様子を確認しに来ていたのだ。
物語のラストではさらに驚くような八田洋久の秘密も。
これは最後まで本を読んで自分の目で見てほしい。
もちろん真賀田四季(本当に四季なのかはだれにもわからないが)も出てくる。
話が飛びすぎて追いつけないが森博嗣ファンであれば十分対応可能だ。
それは百年シリーズや四季シリーズを読んでいれば、森博嗣が小説として物語として描こうとしている人類の未来の終着点は肉体を超越したものだとわかっているからだ。
また、島田文子が出てきたことで前半部分の退屈(?)な殺人事件の描写にも、読者の期待を残し、読み進めることが可能となるし、彼女の会話のテンポがやはり森博嗣作品であると安心させてくれる効果をもたらたし。
その点で、森博嗣作品によく出てくる会話のテンポとジョークに一定のずれを生む女性キャラクターはなくてはならない存在だ。
殺人は人しか思いつかない
ここまで読んでくれてありがとうございます。
ψの悲劇を読んで思うことがあります。
“殺人事件が発生した意味はどこにあるのだろう”
作者はこれまで“肉体の意味”について小説の中で語ってきました。
肉体にどんな意味があるのか、なぜ人は肉体にこれまで固執するのか、と。
森博嗣作品は、小説の中盤まで事件が起きなかったり、殺人事件が登場人物の推理だけで語られ真実はわからなかったりすることも多くはありません。
それでもミステリーとして必ず事件を起こしていくのは、“人間としての思考”を表現する必要があるからだと私は理解しています。
特に今回の事件は、八田洋久の妻への思いが起こした殺人事件のように読み取れる内容でした。
その八田洋久は、自分の頭脳をコピーし、鈴木を作り、孫の将太にまで頭脳を取り入れた。自ら肉体を捨て、人間であるかも判別のつかない存在になろうとした。
いずれやってくる頭脳だけを持った“入れ物”が人間を凌駕する時代に、人間が唯一抵抗できるのは人間としての意志だ。
頭脳さえコピーすればいくらでも自分を作り出せるのに、人とそれ以外を区別できるのは人を殺そうとする意志。
入れ物を殺したって頭脳は残るが、やはり人間にはどうしてもその入れ物を殺したいという感情がある。
その感情を見せるために、森博嗣はこれからも殺人事件を起こし、ミステリーとして我々を混乱させてくれるだろう。
※本作は、エラリー・クイーンの悲劇シリーズにかけています。
Xの悲劇→χの悲劇
Yの悲劇→ψの悲劇
のように。(引用もエラリークイーンの翻訳を載せています)
はるか昔にXの悲劇は読んだような記憶が…
少なくともこちらの作品も呼んだ方がより楽しめる作品になるようです。
たまにはこういったサッカー以外のレビューも面白いなと思いました。
森博嗣に興味を持った方はぜひ仲良くしましょう。
それでは!
マンチェスターシティ 一時代の終焉
こんにちは。
tadashiです。
始まり
さっそくですが、私はシティズンです。
マンチェスターシティが好きで、マンチェスターシティの試合結果に一喜一憂する人間です。
マンチェスターシティとの出会いは遡ること13年前の2008年。
レアルマドリードのロビーニョがプレミアリーグに引き抜かれた?チームがマンチェスターシティでした。(私は古くからのマドリディスタでもある)
この時期のマドリーは、ジダンが引退し、リーガを制したカペッロもいなくなり、翌年のクリスティアーノロナウド獲得までの個人的には狭間の時期でした。選手は入れ替わり立ち代わり、監督も入れ替わり立ち代わり。
ロビーニョがマンチェスターシティというチームに行ってしまった。
と言うのが最初の出会いでした。
プレミアでは、チェルシーのアブラモビッチが大きく日本で取り上げられ、それから数年後マンチェスターシティもオイルマネーを手にし、さあ、これからサッカー界に旋風を巻き起こそうというような取っ掛かりだったかもしれません。
ここではまだマンチェスターシティという存在を認知しただけ。
プレミアリーグもマンチェスターユナイテッドやアーセナルが日本でも人気でした。
月日は流れ、2014年。
14-15シーズンにたまたま見つけたハイライト映像に衝撃を受けました。
バイエルンをボコボコにするデブライネというベルギー出身のミッドフィルダー。
ブンデスリーガは、香川を皮切りに数多くの日本人がプレーするようになったリーグでした。それもあって私の目にも届いたのかもしれません。ブンデスリーガを熱心に追っていたわけでもなく、7年前は個人的にまったく余裕のない日々を過ごしていたのでサッカー自体から少し離れていた時期でもありました。
もしかしたらこの出会いがサッカーへの活力を少しだけ取り戻せた出会いだったかもと今なら思えます。
緑色のユニフォームをまとったデブライネという若きミッドフィルダーは、バイエルン相手に自在にドリブル、パスを成功させていました。
これはだれだ?
デブライネが15-16シーズンにやってきたのが、マンチェスターシティでした。
この2回目の出会いが、僕をマンチェスターシティに引きつける要因となりました。
ということで、僕の中ではそんな入りだったマンチェスターシティは、いまや生活の一部。
多くの人たちと交流ができ、僕がブログを始めるきっかけとも言えるチーム。
さて、前置きが長くなりましたが、今回はマンチェスターシティの終焉について書きたいと思います。
終焉という言葉はあまりに重く冷たい言葉のように思えますが、これはマンチェスターシティの変化、強者のメンタリティがチーム、そしてファンに強く残ったままこれからの10年、20年を戦っていくための始まりの言葉です。
本格的にマンチェスターシティを追うようになったのは18-19シーズンからです。
今回の記事ではデブライネ加入からのマンチェスターシティの移り変わりとペップが去ったあとの問題、アフターペップの時代を少しだけイメージしようと思います。
完全に私の主観で語ります。
皆様もいろんなことを想像しながらしばし、お付き合いください。
ペップシティ振り返り
16-17シーズン~21-22シーズンの基本システム
ブンデスリーガのなんでもないハイライトで衝撃を受けた14-15シーズン。
デブライネが移籍先に選んだマンチェスターシティは、2008年からアブダビ王族のシェイク・マンスールに買収され、資金力だけで言えばプレミアリーグのトップクラブへとなった。
”アブダビ王族”なんて単語、おそらくマンチェスターシティ関連でしか使わないワードだ。
莫大な資金力を元手に移籍市場に大金を放り込んでくるマンチェスターシティは、次々とビッグネームを獲得した。
デブライネが来た時でさえ、すでにアグエロ、ダビド・シルバ、スターリング、フェルナンジーニョがいて、マヌエル・ペジェグリーニ監督の元ではデブライネも完全なスタメン選手ではなかった。
それではさっそくですが、フォーメーションを振り返ってみよう。
ペップの色が出始めたのは、17-18シーズンから。
本来中盤の選手であるデルフを左SBで起用した。ウォーカーはこのときはまだ脳筋感があったのは懐かしい。完全なスタメンではなかったもののコンパニはやはりこのチームのキャプテンだった。
オタメンディの兄貴がなぜかペップの下でビルドアップ能力に目覚めたのは個人的にはネタ。
18-19シーズンはデブライネが不調だったシーズン。代わりにベルナルドが絶好調。冬に来たラポルトがこれまた大当たりの補強だった。
19-20シーズンにラポルトが怪我をして、このシーズンはロドリやらフェルナンジーニョやらがCBをやっていた。
ここら辺からジンチェンコが台頭。本来であればメンディーを大外レーンすべて担当させたかったのだが、怪我もあり無念。でも、今考えるとザネやスターリングとメンディーって絶対に相性悪い。
主力はあまり変わらないけど、19-20シーズンにはザネがバイエルンに移籍した。
マフレズがぐんぐん来た。いつの間にか裏抜けまで覚えて、シティに来てからドリブラーではなくなってしまった。
カンセロの守備の曖昧さがどうしても気になってしまったが、今シーズンも安定して曖昧だったのであきらめた。
そういえばベルナルドは移籍報道が出ていた。試合に出れなかったらそりゃ移籍したいよな、と思う。
フォーメーション図を眺めてふと思うのは意外にここ数シーズンはデブライネフル稼働がない。
フル稼働してほしいものだけど。
メンバーを見て思うのはあんまりネタにできる選手がいないこと。
オタメンディの兄貴やメンディーは、非常にそういった部分では必要な存在だったかもしれない。
ジンチェンコのラップも今じゃ影が薄くなっている。
ということで一つ目の問題点
問題①
ネタ枠が少ない
どの選手もどこでもできるが、スペシャリストが不在
ペップ プレミア上陸から見るシティのWGの変遷
さて、過去6シーズンをシステムで振り返りました。
この並びを見ていると、シティはどのポジションにも長年同じ役割を与えていることがわかります。
例えば、IHにはDFライン高くまであがりハーフスペースを取ること、SBはアンカーを助けるため後方のハーフスペースに動くこと、CBはボールを動かし、効果的な縦パスを前線のアタッカーに配球すること、そしてWGは大きく幅を取ること…。
一見するとペップの考えはほとんど変わっていないように見えるが、たった1つのポジションだけがこの6シーズンで大きく変わっている。
それはシティの攻撃を司る両WGの役割
ペップがやってきた16-17シーズンから順番に追っていくと、ザネが退団した19-20シーズンから逆足のWGを配置していることがわかる。
スターリングは主戦場が左となり、右WGにはマフレズやベルナルドシルバが置かれることが増えた。
バイエルン時代から両WGには縦と中の強力な単独突破からゴールに向かう役割を与えていたのに、このタイミングでペップの中でのWGは単独突破の駒ではなく、IHのポケット侵入のためボールホルダーの意味合いが強くなった。
これはスターリングが点を取れなくなり、スタメンから外されることも増えたことの理由にもなる。また、ストライカー不在の影響も大いに関係するが、話が長くなるので割愛する。
今でこそ、対戦相手によって順足の配置を見せることもあるが、役割はあくまでサイドラインでのボールキープ。
相手の守備を同サイドに偏らせるいわば時間稼ぎのための配置になっている。
問題点2つ目はこちら
問題②
純粋なサイドアタッカー不在
WGからの単独突破の欠如
CL決勝に到達した20-21シーズン
11-12シーズンでプレミアリーグを始めて制覇したマンチェスターシティ。
そこから毎シーズンのようにプレミアリーグの優勝争いに名を連ねていたシティがペップ・グアルディオラを監督に招く理由は当然ながらチャンピオンズリーグ制覇だ。
もはやそれしかない。
クラブの最大の目標に限りなく近づくことができたのが、昨シーズンのチャンピオンズリーグだった。
初の決勝進出。
結果はみなさんご存知のとおりチェルシーがハヴァーツの1点を守りきり優勝。
初めて決勝に進出したチームは優勝できないというジンクスは破られることなくシティもそのジンクスどおりに敗戦した形となった。
このシーズンは17-18シーズン、18-19シーズンに連覇をしたあと1年ぶりにプレミアリーグを制覇したシーズンでもあった。
勝ち点も得点もこの2シーズンには遠く及ばないもののチーム力としては格段に強固となった印象があった。
劣勢の状態からの逆転、CF不在でも現れたスコアラー、対策されてもなお攻めきれる戦術など圧倒的ではない数字から、圧倒的な強さを感じるシーズンだっただけに、我々ファンは大いに期待をしていた。
だからこそ気分の落ち込みはとても大きかった。
チャンピオンズリーグの敗戦から、何度も多くの人が議論を重ねてきたのが大舞台の経験値のなさと絶対的なスコアラー不在という問題だった。
特にアグエロというプレミアリーグ屈指の点取り屋はチャンピオンズリーグに関しては大事な試合ほど出場しないことが多かった。
バルセロナのメッシ、レアルマドリードのロナウド、バイエルンのレヴァンドフスキのように大舞台でなんとか得点をもぎ取ってくれる選手がいないということの限界が見えてしまった結果でもあった。
さて、新シーズンはもちろんクラブはストライカーの獲得に動き出した。
狙うのはトッテナムのハリー・ケイン、ドルトムントのハーランド、ユベントスのロナウドなんて話も出た。
しかし、どの選手も獲得にはいたらなかった。
さらにアグエロは契約満了でバルセロナへ(2021年に不整脈のため、引退を発表)、唯一のCFジェズスはWGでのプレーを好んでいることが判明した。
2021年12月現在、マンチェスターシティはプレミアリーグで最多得点、最少失点で2位に8ポイント差をつけて首位に立っている。ストライカーが不在なのにも関わらず。
CFで起用していたフェラントーレスはバルセロナに移籍も決まり、マンチェスターシティは常に偽9番で試合に臨んでいる。
勝っているから良いのだろうか。
CL決勝で敗戦した理由でもある問題点3つ目
問題③
偽9番に慣れすぎたシティ
ストライカーがビルドアップに組み込まれる前提の配置
ペップ体制残り1年
ここで一度立ち止まってペップ体制について現状を把握しておこう。
契約期間
ペップは、同じチームを3年を超えて率いることはない
と、よく言われていた。
本人もバルセロナでの4年間は長かったと言っていた。
そんなペップもマンチェスターシティとの契約は2023年までである。
2016年の夏にシティに来たので契約を全うすると7年間在籍することになる。
それだけチームが素晴らしいのか、フロントに知り合いもいてやりやすいのか、はたまたマンチェスターという街が住みやすいのかはわからないが、7年間は長い。
だからこそ危険である。
獲得タイトル
ペップはマンチェスターシティを率いて現在6年目。
その期間に獲得したタイトルは数多くある。
18-19シーズンにはコミュニティシールドも含めて国内4冠を達成。
完全なる内弁慶である。
ここまでイングランドで輝かしい成績を残せた監督は、ここ近年で言うとマンチェスターユナイテッドのファーガソンやアーセナルのヴェンゲルだろうか。
ペップは確実にプレミアリーグの歴史に名を刻んだ監督であるのは間違いない。
だが、一方でチャンピオンズリーグはどうかというと、
20-21シーズンの準優勝を除くと、ベスト16が1回、ベスト8が3回と完全に経験値が不足している。
チャンピオンズリーグでの勝ち方を知らないようなチームに見えてしまう。
私はいまだにベスト8リヨン戦の3バックは、思い出すだけで苦い顔になる。チャンピオンズリーグでのペップの奇策はファンの間でも風物詩のように語られるのだ。
昨シーズンのCL決勝でもシーズンで一度も採用していないアンカーギュンドアンだったのだから気が抜けない。
今シーズンはないことを願うが。
主眼をどこに置くか
今シーズンはもう折り返しに入っているので、ペップ体制は残すところあと1年となった。
我々ファンは何を主眼にしてチームを応援すればいいだろうか。
一番のポイントはチャンピオンズリーグの制覇だ。
これは揺るがない。
これは至上命題であり、ペップであれば叶えられる現実的な目標だ。
二番目は、第二のフォーデンの出現だろうか。
大事に大事に育てたイングランドの至宝は昨シーズンについに輝きだした。
シティのファンは「シティの育成システムは素晴らしい」ともしかしたら思っている人もいるだろうけど、まあ、しかしそんなうまくいくとも思えない。
シティの選手という肩書を載せていい感じの値段で売却することがおそらく現在のアカデミーの位置づけに感じるので、フォーデンの次に出場機会を得ているパルマーですら来シーズンはわからない。
なんだかフェラントーレスがいなくてもパルマーがいるからなんとかとペップは言っていたが、ペップはすぐにこういうことを言って選手を潰しかねないので心配である。
三番目のポイントがストライカーとしてだれを置くのかとしたい。
アグエロは素晴らしいストライカーだったが、CLではいまいちだったのは事実。
普段微妙だけど、なぜか大事な時に絶対点を取る理不尽な選手がいてくれたらシティのCL制覇はぐっと近づくような気がする。
(私はスターリングにその片鱗を感じたが、リヨン戦のあれでもうそう思うことはやめた)
※怒りの記事を読んでください。
アフターペップ
ようやく最後だ。
最後に、アフターペップ(ペップが去ったあとのこと)のシティについて考えてみようと思う。
7年間も同じ監督に率いられたチームはどういった転換をするべきなのか。
同一路線で後任を探すべきなのか。
その鍵は同じくアフターペップを経験したチームが持っているのではないかと私は思った。
アフターペップの2チームの現状
ということで、これまでアフターペップを経験したチームはヨーロッパに2チームある。
2008年から4年間ペップに率いられ、ヨーロッパに衝撃を与えたチーム。
その当時のメンバーであるイニエスタやビジャはJリーグでプレイし、チャビは現在そのバルサの監督をしている。
アフターペップ期間は10年目。
9年間の成績は以下
国内リーグ | 国王杯 | CL | |
12-13 | 1位 | ベスト4 | ベスト4 |
13-14 | 2位 | 準優勝 | ベスト8 |
14-15 | 1位 | 優勝 | 優勝 |
15-16 | 1位 | 優勝 | ベスト8 |
16-17 | 2位 | 優勝 | ベスト8 |
17-18 | 1位 | 優勝 | ベスト8 |
18-19 | 1位 | 準優勝 | ベスト4 |
19-20 | 2位 | ベスト8 | ベスト8 |
20-21 | 3位 | 優勝 | ベスト16 |
21-22シーズン12月現在はリーグ7位、CLグループリーグ敗退。
バルセロナを退任し、1年間の休養を得たペップが、CLを制覇したハインケスを押しのけて就任したのが、13-14シーズン。そこから3年間バイエルンはペップの元でブンデスリーガを無双したが、CLは取れなかった。
アフターペップ期間は6年目。
国内リーグ | ポカール | CL | |
16-17 | 1位 | ベスト4 | ベスト8 |
17-18 | 1位 | 準優勝 | ベスト4 |
18-19 | 1位 | 優勝 | ベスト16 |
19-20 | 1位 | 優勝 | 優勝 |
20-21 | 1位 | 2回戦 | ベスト8 |
21-22シーズン12月現在はリーグ首位、CLグループリーグ突破。
いかがでしょうか。
直近2年間のバルセロナは置いておいて、アフターペップは2チームとも大きく崩れてないことがわかる。
バルセロナもバイエルンもアフターペップにCLを優勝している。
マンチェスターシティも大いに期待できる。
またも大いに期待してしまう。
ただ、少しだけこの表からは読み取れない情報を頭に入れておく必要がある。
この2チーム、一度ずつCLを制覇しているが、どちらの監督もポゼッション思考ではない縦に速いサッカー、前からプレスに行くサッカーを貫いていた。
待てよ…?
もし、マンチェスターシティがペップの意思を継いで、ポゼッション路線のまま進んでいったとしたら…
アフターペップの戦術的アプローチ
これでほんとのほんとに最後となる。
長いこと読んでいただきありがとうございました。
最後は、マンチェスターシティの戦術について。
ペップのおかげでマンチェスターシティは非常に統率の取れたチームとなった。
どんな相手であってもボールを保持し、相手が守りにくいエリアを制圧し、ストライカーがいなくても得点を取れるチームに仕上がった。
が、しかし、サッカーは変わっていく。
すでにペップがヨーロッパに衝撃を与えたパスサッカーは、ストーミングという真逆のコンセプトやコンパクトな5バックなどの対策が取られてきている。
これによってペップ自身もルベンディアスのおかげか、引いて受けることも実践している。
ペップのサッカーは、ボールを奪われる位置までコントロールしたがっている。
DFラインやアンカーで奪われるなんて論外。絶対に奪われてはいけない。
それはなぜか。
DF能力に長けた選手が少ないからだ。
そういった選手、比較的足元の技術に優れ、戦術眼のある選手がこの6年間次々にシティに加入したからだ。
ボールを保持する時間が長いので、守備だけが突出している選手がいても、シティでは出番はほとんどない。もしかしたらCL決勝1点差で勝利している残り5分間だけは出場機会があるかもしれない。
では、監督が変わったらどうか。
ペップは異常だ。大きく偏っている。
だからこそカンセロをSBの位置でゲームメイクさせるし、ギュンドアンをストライカーとして前線に飛び出させる。
エデルソンはCBよりも高い位置に置くし、ほぼすべての試合で偽9番を採用する。
おそらく次の監督はそんなことしない。
サイドバックにはウォーカーのようにフィジカル能力が高い選手を置きたいだろうし、前線にはクロスからもスルーパスからも得点の取れるストライカーを起用したい。ましてやWGが縦に仕掛けないことなんてもったいないとしか言いようがない。
自分たちのコーナーキックのこぼれ球を相手陣地で拾ったにも関わらず、ゴールキーパーまで下げるデブライネのプレーに「よくやった」なんてことも言うはずがない。
マンチェスターシティはどう考えてもまったく別物のチームになる。
ペップがシティでこのサッカーを選択し、プレミアリーグ最強でいられるのは、マンチェスターシティだからではなく、ペップだからだということを忘れてはいけない。
何をそんな当たり前のことを。
と思っている人がいるかもしれないが、私が一番恐れているのはペップシティではなくなってサッカーが変わった時にファンが離れてしまうことだ。
こんなにボールは保持できなくなり、負けることも増えたときに、我々はどこまでマンチェスターシティを信じて応援できるのだろうか。
かくいう私もデブライネやジンチェンコが移籍したら気持ちがどうなるかわからない。
アフターペップの恐ろしさは、チーム力とペップの戦術を同じだと考えてしまうことにあると思っている。
極端なことを言えば、バルサやバイエルンがアフターペップでも勝ち続けたのはメッシ、ネイマールがいたから、レヴァンドフスキ、キミッヒがいたからと誤解を恐れず言っておく。
マンチェスターシティには今のところそこまでの選手がいない。
だからこそ、魅力的なのだが、果たしてその魅力がどこまでもってくれるのか。
5年後、10年後の未来を想像してみたい。
終わりに
いかがでしたでしょうか。
ペップがいなくなったあとのマンチェスターシティを考えるのは難しく、このサイクルはいずれ終えてしまうのは間違いない。
サイクルの終焉はどの世界にも等しく存在するもので、その次のサイクルをどう見据えているかというのが重要だ。
マンチェスターユナイテッドやアーセナルはまさにそれで一度失敗をしている。
アトレティコマドリードはマンチェスターシティと同じく、アフターを考えなければいけない。
本当に強いチームは選手や監督に左右されないものだ。
それでも選手や監督にファンが集まるのも事実なので、常に新しくそれでいて伝統を重んじるクラブになるには、クラブそのものがどういった道を描いていくかという部分が見たい。
2023年からのマンチェスターシティにはとても興味がある。
どう変わっていくのか、何が変わらないのか。
ようやくマンチェスターシティの浮き沈みにファンとして踏み込めると思うとわくわくしてしまう。
上に挙げた3つの問題点は、アフターペップで、もしかしたらペップがいるのに来シーズンからでも訪れるものだろう。
今回の記事には対処法も回答もないが、クラブの方針がそんな問題を書き消してくれることを願う。
まずは、ペップ体制で最大の目標が達成されるのを見届けたい。
話はそれからでもいいかもしれない。
それでは!
よいお年を。
CL第4節 Real Madrid vs Shakhtar Donetsk
こんにちは。
tadashiです。
本日はチャンピオンズリーグのレビューをしていきたいと思います。
今回の試合は、私の愛するレアルマドリードとロシアの強豪シャフタールの試合です。
レアルマドリードは苦戦しながらもしっかりと勝ち点を積み重ねていくのはさすが。特に相手の勢いを殺すことにかけてはどこか悪魔的です。
それでは、接戦のゲームの中で見られた両チームの戦術を見ていきたいと思います。
スタメン
ホーム レアルマドリード CL男ロドリゴの不在を埋めた愛に溢れたバスケス
クルトワ、カルバハル(⇒66'ナチョ)、ミリトン、アラバ、メンディー、モドリッチ、カゼミーロ、クロース、ルーカスバスケス、ベンゼマ(⇒79’ヨビッチ)、ヴィニシウス
アウェイ シャフタール 優秀なブラジル人はここから
取る便、ドゥドゥ、マルロン、マチュビエンコ、イスマイリ、マイコン、ステファネンコ(80’スダコフ)、テテ(⇒80’マルロス)、アラン・パトリギ(⇒79’アントニオ)、ムドリク(⇒71’ソロモン)、フェルナンド(⇒86’デンチーニョ)
下記フォーメーション図参照
狙いと狙いが交差する前半
猛攻のマドリー
試合開始からハイテンポで両チームの良さが見える展開が見えました。
シャフタールはサイドにマドリーを追い詰め、局所的な数的優位で囲い込みますが、マドリーはそのシャフタールの誘いを得意の右サイドで引き受けることでプレス回避による左サイドへの展開をして攻撃に転じていました。
この流れはマドリーが先制点をあげる前半15分まで見られました。
この時間、そして前半のマドリーは下記の図のように左ハーフスペースをベンゼマが使うことで、攻撃の軸であるヴィニシウスにボールを集めるようにしていました。
右でプレス回避を行い、一気に逆サイドに展開。
その展開の方法はロングボールではなく、ベンゼマのスライドによる中継です。
ヴィニシウスが当然警戒されていたこともありますが、ベンゼマが一度ハーフスペースで受けることで、後ろの選手たちが前に出る時間を稼ぐ効果もあります。
現にこの試合はベンゼマが流れた中央にはモドリッチが入るようになっていました。
ロングボール一発でヴィニシウスの裏を取っていたら相手の守備に対して攻撃の枚数が少なくなってしまっていました。
今のヴィニシウスとベンゼマであれば二人だけで点を取ることもできたでしょうが、被カウンターのことも考えるとファーストチョイスがベンゼマの足元だったのだと思います。
そして、そのファーストチョイスじゃない次の選択から先制点が生まれたのが14分のシーンでした。
ミリトンからのロングボールは裏へ抜けるベンゼマの目の前に落ちるも一度は奪われます。
しかし、その直後に守備への切り替えでぼボールを奪い返したヴィニシウスがベンゼマにアシストをしたゴールでした。
このゴールはヨーロッパカップ戦の1000ゴール目のゴールで、そのゴールをベンゼマがあげられたことが今のマドリーには重要なゴールだったと言えます。
デ・ゼルビの分析
マドリーの後方でのビルドアップに対して、物おじせずに前からはめてやろうと高い位置を取っていたシャフタールでしたが、左サイド(マドリーの右サイド)でうまくいなされ、質的優位のある左サイドに展開されてしまうというなかなか苦しい入りで先制点を与えてしまいました。
しかし、これでマドリーが落ち着いてくれたことで、デ・ゼルビのシャフタールはしっかりとボールを持って、マドリーを揺さぶることでチャンスを作っていくことに成功しました。
デ・ゼルビは前回の対戦も含め、マドリーを分析しました。
それがマドリーの4-4-2守備です。
・IHの1人が一列前に出る
・カゼミーロの脇がマドリーのデッドスペース
・DFラインのマークの受け渡しに難がある
以上のような弱点のあるマドリーの守備に対してデ・ゼルビは以下のアクションでボールを保持、ゴール前まで侵入を成功させます。
・左SBのイスマイリを最前線に上げ、マークを増やす
・アラン・パトリギを上下動させ、カゼミーロの脇や背後を使う
・左CBがドリブルで持ち上がり、IH+ベンゼマの守備を無効化させる
これらを頭にすりこんだところで、下記の図を見てください。
まず、シャフタールが狙ったのが丸で囲っている2つのエリア。
左CBマチュビエンコの前とカゼミーロの脇です。
右CBのマルロンがボールを持つと、ベンゼマは背中でマイコンを消しながら緩くプレス。クロースが一列前に出てマイコンをマークします。
マイコンがボールを受けにマルロンに近づくとそれに合わせてベンゼマとクロースもずれてきます。
そこでフリーになるのがマチュビエンコでした。
横パスを受けたマチュビエンコは何度となくドリブルでハーフラインを超え、危険なエリアへパスを配球していました。
彼の今日のパスのスタッツは97回のタッチのうち74本のパスを成功(成功率89%)
このマチュビエンコのドリブルをどうしてケアできなかったのか。
それはもう一人のボランチ ステファネンコとイスマイリのポジションにつきます。
ステファネンコのポジションは、ルーカスバスケスがマークをつかなければならなくなり、最前線のイスマイリはモドリッチの意識を後ろ向きにさせるに十分でした。
例えば、モドリッチがマチュビエンコのドリブルを嫌って高い位置を取れば、その背後のイスマイリがフリーになり、そのイスマイリをフリーにさせないようにカルバハルが絞れば、大外のムドリクがフリーになります。
次の図ではバスケスが意図的に最終ラインに落ちた瞬間がありましたが、これはCBのドリブルに対してだれかがいかないといけないための苦肉の策のように感じました。
続いて、カゼミーロの脇を狙うアラン・パトリギのプレーですが、これはマドリーの永遠の課題、未来永劫解決しないマドリー七不思議のひとつなので、見ているマドリディスタの方々は諦めているだろうと思います。
私も諦めています。
ただ、今日の試合はそのカゼミーロの脇を狙うだけでなく、足元でボールを受ける次の動きでDFライン上でフリーになっていたのがポイントでした。
おそらく、アラン・パトリギをマークするのはカゼミーロで、アラバはボールとゴールと周辺の選手を見ながら統率を取る役目だったのだと思います。
カゼミーロはボールウォッチャーになってしまうという欠点があり、アラン・パトリギに足元で受けられないように自分の両脇に注意を払ってプレーしていましたが、アラン・パトリギは「受けられなければその背後」というように、カゼミーロの背後、つまりDFラインでフリーとなることができていました。
結局、アラン・パトリギが後半に交代するまで続くことになりましたが、それでも1失点しかしなかったのはクルトワのおかげであり、最後の最後で食らいつくDF陣とカゼミーロも要因でした。
組織的に守れない、というのはもうどうしようもないので、マドリーらしさで片付けてしまいたいなと思います。
華麗な失点
上で説明したカゼミーロの背後で失点をしたのが40分でした。
上下動するアラン・パトリギにカゼミーロは相当手を焼いていて注意はしていたと思いますが、左CBがかなり高い位置まで持ち運んだことで一瞬気が緩み、気づけばアラバとメンディーの間でフリーになるアラン・パトリギの姿が。
あの瞬間アラバはフェルナンドを見なければならなかった。
大外はメンディーがマークしていたので、アラン・パトリギの飛び出しにはカゼミーロがついていくという選択肢しかなかった中でカゼミーロはボールウォッチャーになっていたので、アラバとしてはどうしようもなかったと思います。
あの場面で胸でパスをしたアラン・パトリギには拍手を送りたいですし、あともう少しのところで届きそうだったアラバの反応速度にも賛辞を贈りたいです。
これで完全に勢いはシャフタール。
前半終了間際にはフェルナンドが抜け出し決定機を作られましたが、ここはクルトワがビッグセーブ。
入ってもおかしくない場面でクルトワがチームを救いました。
相手の勢いを殺すマドリーの後半
猛攻のシャフタール
両チームともハーフタイムでの交代はなし。
前半良い形で終えられたのはシャフタール。
前半開始からボールを持ち、46分には後半最初のシュートを放ちます。(これもDFライン上でフリーになっていた)
マドリーもホームで同点のままではまずいので攻撃に出ていきます。
前半よりもペースを高めているように感じます。
メンディーがハーフスペースに上がり、攻撃の圧を高めていたのは間違いないです。
前半最初のマドリーの猛攻に仕返しするように後半開始はシャフタールが攻めます。
およそ10分間で言えばシャフタールの方がチャンスを作っていました。
レアルマドリード相手にアウェイで同点、というのは選手たちの気持ちも昂るものです。
55分には約2分間ボールを持ち、マドリーにプレーさせることなくゴール前クロスまで持ち込んだシーンもあり、マドリーのカウンターもすぐに潰し、常にマイボールで試合を進めていました。
前に出ても人が足りず、なかなかゴール前まで運べないマドリーに我々は少しだけ嫌な予感がありました。
少しだけですけどね。
強者のゲーム運び
そんな不安を消し飛ばしてくれたのがやはりベンゼマとヴィニシウスでした。
シャフタールが勢いに乗り、良いリズムでマドリーゴールに襲い掛かるプレーを連発している中で、マドリーが逆転ゴールを上げます。
しかも、この攻撃は久しぶりに自分たちのボールにできて、後ろから丁寧にビルドアップを始めた最初のプレーだったので、
「レアルマドリードというチームはなんでこうも強いんだろう。技術が高いだけでなく、相手の気持ちをへし折る時間に、なんで得点があげられるんだろう」と思いました。
レアルマドリードに引き込まれるのはこの強者の部分なんだと今日の試合を見て思いました。
攻められている時間の長さなんて関係ない
守備の組織が統率されるかなんて関係ない
決めるべき人が決めるべきタイミングで試合を決める。
相手がやられてはペースが乱される時間帯で、そういったプレーができる。
レアルマドリードの選手としてプレーする選手たちは、この感覚が抜群。
しかもこのゴール。
ペナルティーエリア内で複数のダイレクトパスが重なる非常に美しいゴールでした。
ヴィニシウスが左から右に横断してきたことで、より狭くなっていたにも関わらず、カゼミーロまでペナルティーエリアに入っていました。
ヴィニシウスとカゼミーロのヒールによるワンツーと、それをダイレクトで真横にパスをするヴィニシウス、そしてそこにいるベンゼマ。
白く輝くマドリーの非常に美しく絶望的なゴールでした。
試合はこのままスコアは動かずにマドリーの勝利です。
後半、マドリーは左サイドの配置を変え、守備の時はモドリッチが一列前に出るように少しだけ変化をつけました。
シャフタールはこの状況でも下を向くことなく、自分たちのやり方を貫き、何度となくチャンスを作っていましたが、こうなったときのマドリーは強い。
なんだかよくわかんないけど点は入らないし、あわよくばもう1点取ろうとする。
大事な試合ほどマドリーはとても強い。
それがよくわかる試合でした。
マドリーの左サイドの使い分け
最後に、この試合で感じたレアルマドリードの左サイドのパターンについて感じたことを書いて終わりにしたいと思います。
下の図を見てください。
この図は、後半の左サイドの攻撃の組み立て方です。
メンディーがハーフスペースの高い位置に上がり、クロースがSBの位置に落ちる。そしてヴィニシウスはワイドに大きく開くというこの動きは、パサーであるクロースを意図的にフリーにすることができる非常に有効なマドリーのビルドアップの形の一つです。
メンディーに対してはDFライン以外の選手が下りてこなければならず、マドリーはより優位にボールを後ろで回すことができるのです。
さて、この形は昨シーズンも良く見たし、クロースがいるときは今シーズンも見られたわけですが、どうやらこの形はクロースの有無で行っているわけではないことがなんとなくわかりました。
それは前半はこの位置をベンゼマが使っていたからです。
前半はメンディーはそれほど上がってこないで、クロースも下りてくることもほとんどなく、中央でゲームメイク。
モドリッチが前線に上がるため、後方でサポートというように見えました。
となると、答えは私の中では一つです。
それは、攻撃の圧力を左サイドの配置でスイッチングしている、ということです。
図を再掲します。
前半の形です。
見比べてもらうとわかると思いますが、前線にかける人数が違います。
後半の形だと、初めからベンゼマを中央に据えることができる、かつ、メンディーがペナルティーエリアに入りフィニッシャーとしても動くことができます。
さらに、前に人が多いので、ネガティブトランジションへの移行も素早く行うことが可能です。
前半は失点をしないように効率よくゲームを進めたかった、後半は勝つために前に人を送りたかった。
この使い分けがマドリーの左サイドによってなされているのだろうなと感じました。
ただ、これは今のところクロースとモドリッチがどっちも出ていないと難しいです。
また、左SBがメンディー以外でも可能かどうかも未知数です。
なので、今シーズンはあまり見られていないのかもしれません。
攻撃的にいきたいから前線の枚数を増やすのではなく、ビルドアップから崩しの局面に対して配置を変えてくることで、切り替えていくマドリーにやはり魅力を感じてしまいました。
ということで、以上です。
リーグではオサスナに引き分けていたので勝利できてよかったです。
バルサの監督にシャビが決まったようで、これからラ・リーガはますます盛り上がっていくことでしょう。
CLにあわせて、ラ・リーガも見ていきましょう!
Hala Madrid!!
それでは!